論功行賞(2)



 大臣たち一同は、言葉を失った。論功行賞を議論している場に、突然、何のことわりもなく、超渦中の者が乗り込んできたのだ。


「……な、なななにをしに来た!?」


 エヴィルダース皇太子は、目をバッキバキに血走らせながら尋ねる。


「いや、失礼かとも思ったのですが、アウラ秘書官に弟子がお世話になりましたので、一言お礼を。入ってきなさい」

「……っ」


 ゾロゾロ。


 1人じゃない。多人数で、会議の席に、アポもなく、ゾロゾロと押しかけてきた。来たのは、衛士のカク・ズ、ヤン、エマである。


 間違いなく、超失礼。


 アウラ秘書官は、驚きつつも、ヤンに向かって声をかける。 


「よかった、意識を取り戻したのだな」

「エヘヘ、お陰様で元気になりました」


 黒髪少女は、照れ臭そうにお辞儀をする。


「驚いたぞ? 急に倒れたのだから」

「ちょっと魔力を使い過ぎましたかね」

「修行不足で申し訳ありません。アウラ秘書官の機転の効いたご助力がなければ、おそらく、不肖の弟子の命はなかったでしょう」

「いや、それを言うならば、この少女がいなければ、未だ南の軍は戦闘を継続していたかもしれない。礼を言うのは、こちらだろうな」

「帝国将官として、全戦力を投入するのは当然の責務です。いや、しかし、さすがはアウラ秘書官。まさか、勇騎将ガーランドと互角の戦いを繰り広げるなど、戦場においても、やはり、あなたの優秀さは疑いようがない」

「いや、やっとのことだよ。まあ、その話は一旦置いておくとしてーー」

「マラサイ少将も、やはり、鬼人ですな。開戦からずっと戦ってこられて、今もなお最前線の戦場で戦い続けておられる」

「本当に、素晴らしくタフな御仁だな。今回の論功行賞でも、新たに大将級への昇進は打診されるだろうが、あの方の気質上、辞退されるだろうな。いや、まあ、その話は一旦置いておくとしてーー」

「後続隊のレイラク様の動きも非常によかったと聞きます。最終的な撤退の判断は、彼らが参戦してからだと聞きます。まったく、有能な部下を持っていて羨ましい」

「……っ」


「「「「「……っ」」」」」


 全然、話を一旦、置かない。


 周囲の雑音を完全にシャットアウトして、アウラ秘書官が、完全に周囲を気にしているのにも関わらず、これ見よがしに反帝国連合国の戦の話をしまくるへーゼン=ハイム。


 そして。


 無視。


 エヴィルダース皇太子、ガン無視。


 これが、あまりにも失礼が過ぎる。


「へーゼン=ハイムぅー! エヴィルダース皇太子がぁー、この場におられるのだぞぉー!? まずは、礼を尽くすのが臣下の務めだぞぉー!」


 農務大臣のウマルコ=ビッジが、顔を真っ赤にしながら、語尾を伸ばしながら指摘する。


「っと。失礼いたしました。反帝国連合国の戦は激闘でありましたので。つい、戦場の話で華を咲かせてしまいました。」

「「「「「……っ」」」」」


 カヤの外。まったく戦に参戦していない大臣級を完全にカヤの外に置いて、咲かすどころか咲き乱れさせる強靭異常者ストロングサイコパス


「ぶ、ぶ、ぶぶ無礼にも程があるぞぉー! ここは、天空宮殿だぞぉー!?」 

「非礼お詫び致します。平民出身なもので、どうかご容赦いただきたく」


 へーゼンは、ウンマル大臣に対し、申し訳程度の会釈をして、完全に背を向けていたエヴィルダース皇太子の前に立ち、礼を尽くす。


「ご機嫌麗しく。反帝国連合国の戦では、総指揮官としてーー」

「ふん! 貴様のような無礼者が、今更、おべっかを使ったところで」

「あー……総指揮官として……えっと……」

「……」

「……」


           ・・・


「「「「……」」」」


 ぜ、全然出てこない。


「いや、今日は本当にいい天気ですよね」

「……っ」


 天気の話。


 話す話題が全くないヤツが、一番最初にするジャブみたいな話。


 と言うか、曇りだし。


「……わ、は、決して臆病風に吹かれて戦場に行かなかったのではない。き、貴様らが総指揮官は戦場に行くべきではないと引き留めるから、やむなくはここにいたんだ」

「あっ! そうですよね。素晴らしかったです。よく、『待て』ができましたね」

「……っ」


 犬。


 イッヌ扱い。


 今をトキメク、やんごとなき存在の皇太子を、まるで、飼い慣らされたイッヌの如く扱い始める超異常者スーパーサイコパス


「いや、本当に素晴らしい。エヴィルダース皇太子が、戦場に向かわれていたら、周囲が混乱して迷惑千万でしたので。待つことも戦いのうちですからね。非常に賢明なご判断でした……それでは」


 へーゼンは颯爽と視線を移して、デリクテール皇子の元へと向かい、深々とお辞儀をする。


「ご挨拶が遅れて申し訳ありません。私の衛士であるカク・ズが非常にお世話になりました」

「……へーゼン=ハイム。君は素晴らしい戦士を持っているな。まさか、大将軍ギリョウ=シツカミの首を一瞬にして狩るとは度肝を抜かれた」

「いえ、それもデリクテール皇子が勇敢にも戦の最前線に立ったからです。まさか、帝国存亡の戦で、そのような大胆な策に出られるとは、私も予想外でした」

「その時、その状況に応じて、判断をしたまでだ」

「それが、当然にできることが素晴らしいのです。いや、皇族とはかくあるべし、というお姿をまざまざと見せつけられました」

「……それは」


 デリクテール皇子が、チラッと視線を遠くに向ける。


「っと。もちろん、エヴィルダース皇太子も偉かったです。『待つ』ことも戦には大事なことだ。『何もしない』ことができるということは、低能な者にはなかなかできないですから」


「「「「「……っ」」」」」


 露骨。


 活躍した者を手放しで褒め称え、一方で、『待て』ができた者(皇太子)には申し訳程度にいい子いい子する完全異常飼育者マジキチ・サイコ・ブリーダー

 

「き、き、ききき貴様ーーーー! いったい、ここに何をしに来たのだ!?」


 あらゆる種類の血管をプルプルさせながら、エヴィルダース皇太子が叫び散らす。


「いや、お世話になった方々のお礼もかねて。余計なお世話ながら、論功行賞に情報提供しようと思いまして。東にはデリクテール皇子、南にはアウラ秘書官が戦場にいましたが、北と西には戦場におられた方は、この場にいらっしゃいませんから」

「「「「……っ」」」」


 圧倒的に余計なお世話。


「まさか、貴様……論功行賞に干渉しに来たとでも言うのか!? 自身を第一功に推せとでも言いに来たのか!」






























「えっ……それは、私でしょう?」

「「「「「……っ」」」」」

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