ラシード
*
遡ること数十分前。竜騎に乗ったラシードは、漆黒の魔剣を抜き、バーシア女王の元へと単騎で向かう。
眼前には、反帝国連合国の兵たちがひしめく。そんな中、褐色の剣士は一筋の躊躇もなく、目標まで真っ直ぐに突き進む。
「こ、殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ!」
指揮官の狂声とともに、騎兵がラシードの前にドンドンと集まってくる。
だが。
首。手首。胴体。半身。漆黒の剣は、近づいてくる彼らの身体が、まるで最初から離れていたかのように両断の死を与えていく。
「……っ」
そして、次の瞬間には竜騎の速度についてこられずに置き去りにされていく。
「りゅ、竜騎だ! 竜騎を狙え!」
指揮官が指示し、魔法弾と矢を雨のように降らせる。
「……っ」
しかし、当たらない。まるで、乗っているラシードの意志が乗り移っているかのように、軽やかな動きで魔法弾と矢を躱していく。
人馬一体……いや、人竜一体。
これが、元
「……」
次々と前方の騎兵たちを斬り分けていく中、バーシア女王のいる戦場が見えてきた。
状況は芳しくない。当たり前だ。彼女一人で、武国ゼルガニアのNo.2魔戦士長オルリオ、魔長クラス3名……そして武聖クロードを相手にしているのだから。
ラシードは、そのまま竜戦場へと突入し、身を横に滑らせてバーシア女王に向かって腕を広げる。
「掴まれ……逃げるぞ」
「はぁ……はぁ……はぁ……」
彼女もまた、瞬時に腕を広げ褐色の剣士に身を委ねる。
「極上の抱き心地だな……今度、酒をご一緒したいね」
「はぁ……はぁ……ヘーゼン=ハイムの仲間か?」
「雇われだ」
「ふっ……そうか」
バーシア女王は笑顔を浮かべ、華麗な身のこなしでラシードの前方へと座る。本人もダメージが甚大なことをわかっているのだろう。
柔軟で適宜状況判断のできるいい女王だ。
「話も早くて助かるね……さて……」
ラシードは、後方を眺めながらもう一本の曲刀を抜く。それは、白い刀身だった。まるで、三日月のような曲線を描いた美しい剣だ。
「カッカッカッ……
武聖クロードが、尋常じゃない速度で走ってきて拳撃の嵐を見舞う。
「その銘は好かねえな。
褐色の剣士はニヤリと笑い、竜騎に跳躍させることによってそれを避ける。だが、武聖クロードはその跳躍にもついてきて、剣と拳が互いの領域で激しく散らされる。
「久しぶりだな、クロードのジジイ」
「まさか、ヌシが帝国につくなんてな」
「ちょっと、面白いヤツがいたもんでな」
「へーゼン=ハイムか」
「ああ……あいつも面白いな」
「も? ということは、ヤツ以外に、貴様を惹きつける何かがあるということか」
攻防をかわしながら、まるで、酒でも飲んでいるかのように、褐色の剣士と精悍な老人は言葉を交わす。
「ちょっと! 何を仲良く話してるのよ!? 武聖クロード……あんたまさか手加減しようとしてるんじゃないでしょうね?」
そんな中、魔軍総統ギリシアが、狂ったように叫び散らかす
「カッカッカッ! ヌシには、地面の死体が見えんのかの?」
「……っ」
先ほどから、乱入してくる騎兵たちが一瞬にして姿を消していた。
殺戮領域。
ラシードの剣が届く間合いに近づけば、常人ならば、なす術もなく命を刈り取られる。
「ちょ、調子に乗るんじゃないわよ!」
魔軍総統ギリシアは、
だが。
竜騎は即座に身を翻し、彼らを置き去りにする。唯一至近距離でついてこられるのは、武聖クロードのみ。
「カッカッカッ! 相変わらず、小癪な手綱捌きじゃの」
「ジジイも相変わらず元気だねぇ。もう、そろそろ
「ワシよりも、強い者がなかなか出てこんのじゃ。それより、足を止めて戦わんか?」
「こちとら、大陸トップ級の2人とまともに戦うほどアホじゃねぇよ。と言うか、囲む気だろ?」
「いやいや。当然、1対1じゃ。ワシは血が滾る戦いがしたいだけじゃからの」
「ぬかせ。やはり、食えねえジジイだ」
「「「「「……っ」」」」」
互いに気安く話しながら、幾千もの剣と拳が入り乱れる。バーシア女王ですら入り込む隙のない攻防に、周囲全員が舌を巻く。
これが……超接近戦最強レベル。
「な、何をやってるの! 早くあのクソ野郎を嬲り殺しにしなさい! ラシード……いつまでも逃げてるんじゃないわよ! あんたの親友も、あんたの臆病で見殺しにしたんじゃないの!?」
「……あっちにも、懐かしいヤツがいるな」
魔軍総統ギリシアの言葉を聞いた途端に、ラシードは竜騎の方向を変える。
「クッ……ククククククク……そうよ、そうでしょう? 私が憎いでしょう?」
「……」
待ち構えるのは、魔風長ドルチカ、魔土長エンデロ、魔蟲長コストコ。
「お、おい……」
「悪い。ちょっと、因縁があってな」
ラシードはそうつぶやくと、
「くっ……チョコマカと。逃げるの! この臆病者! 何をボーっとしてるの!? あんたたちもーー」
魔軍総統ギリシアが、振り向いた時。
3人の魔長の首が、すでに地に落ちていた。
「あっ……がっ……ぎっ……」
「
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