首都アルツール攻防戦(12)
*
「ぜぇ……ぜぇ……はぁ……はぁ……」
大地に足をつけたヘーゼンは、そのまま片膝をついて激しく息をきらす。身体の全細胞が悲鳴をあげているような感覚だ。
短期間で魔力を消費し過ぎた。
だが、狙っていた必殺の一撃は叩き込めた。
その圧倒的な斬撃を食らったグライド将軍は、そのまま遠くに飛ばされて行った。少なくとも、数キロメートル先で倒れているのだろう。
「ぜぇ……ぜぇ……はぁ……」
これで倒せなければ、あきらめるしかない。
「
ヤンが急いで駆け寄ってくる。
「ぜぇ……はぁ……カク・ズは?」
「ラスベル姉様が治療してます。応急処置も終わって命に別状はないそうです」
「……ラシード」
ヘーゼンは、側についている褐色の剣士に声をかける。
「なんだ?」
「頼みがある。カク・ズを連れて、バージスト将軍らとともに撤退をしろ」
「撤退……ね。わかった」
ラシードは笑みを浮かべて、すぐさま行動を開始する。隣にいたヤンは、驚いた表情を浮かべてヘーゼンに向かって尋ねる。
「グライド将軍は、まだ生きてるってことですか?」
「……微かだが、魔力は感じる」
相当に疲弊をしているのは、確かなようだ。
だが、重傷であることは間違いないだろう。魔力も大きくは感じないので、溜め込んでいた魔力もほぼ全て消費し尽くしたと見ていい。
「生きているならば、もう一度だけ、彼を説得する」
「あ、あれだけグライド将軍の全部を否定しておいてですか?」
「心の底では自覚してたんだよ。だから、あれだけ激昂した」
「……」
生半可な言葉では、あの強靭な
「それにしては、容赦の欠片もない一撃でしたけどね」
「仕方がない。グライド将軍は想像以上に強かった。殺すつもりでいかなければ、倒せない」
やがて。
ヘーゼンは息を整えて立ち上がる。
「ラスベル……」
「は、はひっ!」
怒られるのを恐れるように、青髪の少女は返事をする。どうやら好奇心でこの場に残っているのを、咎められるのではないかと思っているようだ。
「肩を貸してくれ。グライド将軍の元へと向かう」
「わ、わかりました」
ラスベルは急いでヘーゼンに駆け寄り、左手を肩に乗せて歩き出す。
「すまないな。身体が回復するのは、もう少しかかるんだ」
「それなら、わざわざ行かなくても、回復するまで待てばいいじゃないですか!?」
隣でヤンが心配そうな声をあげる。
「時間がもったいない」
「「ヤバっ!」」
2人の弟子によるガビーンが決まった時。
「……っ」
ヘーゼンが微かな異変を感じて足を止め、心の中で一筋の汗を流す。
次に、感じ取ったのはラスベルだった。
「そ、そんな……」
「どうしたんですか?」
「グライド将軍の魔力がどんどん膨れ上がっている」
「えっ!?」
ヤンが驚いて視線を移した時。
「……そうか。そう言う選択をしたか」
ヘーゼンはつぶやく。
そして。
視線の先には、グライド将軍がいた。
「ぜぇ……ぜぇ……グハハッ! まだ、勝負は終わってはおらん」
「……」
その姿は、あまりにも異形だった。身体の中心に大きな穴が開き、主な臓器を失っていながらも、生きている。
中心にある大きな宝珠から拡がった闇の触覚のようなもので身体の組織を繋げていたのだ。
そして。
全身から震えるほどの魔力を纏わせながら、グライド将軍は不敵な笑みを浮かべる。
一方で。
ヘーゼンは、ただ真っ直ぐにその老人を見つめた。
「……
「流石じゃな! もう、何も要らん! ヌシを殺して、クーデター軍を殺して、殺して殺して殺し尽くす! そして……ワシの……ワシとビュバリオ王のイリス連合国を……守ってみせる!」
「……」
その姿はあまりにも狂気的だった。禍々しく、凶々しく、
ヘーゼンは、ただそれを見て。
「……残念だ」
ボソリと。
それだけを、つぶやいた。
「ヌシの負けじゃ! 先ほどの一撃を超えるほどの一撃はもう出せないじゃろう!?」
「……そうですね。僕の負けです」
「グハハハッ! 降参しても許してやらんぞ小僧っ!」
「あきらめました」
素直にそう答える。
「言うたじゃろ! 降参しても許してやらんと」
「違いますよ」
「……あん?」
「あなたを殺さないことをあきらめたんです」
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