初対面


          *


 2週間後、ラスベルはノクタール国の主城であるサザラバーズ城に到着した。衛兵に手続きを済ませ、待っていると、足早に黒髪の魔法使いがやって来た。


 恐ろしいほど輪郭が整った、スラっとした美少年だった。瞳自体が細い訳ではないが、眼光の鋭さが遠目からでも伝わってくる。


 直感的に、この人がヘーゼン=ハイムだと認識した。


「ラスベルと言います。今回、エマ様のご紹介を頂きここに配属されました」


 青髪の美少女は、深々とお辞儀をする。


「よろしく。ヘーゼン=ハイムだ」


 黒髪の魔法使いは、端的に挨拶を返す。その笑顔も仕草も、誰もが見惚れるほど洗練されているが、そのライバル心から、ラスベル自体の感情が動くことはない。


「未だ、テナ学院での生徒の身で若輩者ですが、よろしくお願いします」

「聞いてる。史上最高の成績を各学年で残しているそうじゃないか」

「……ええ」

「素晴らしいな。魔法の実技成績も、申し分ない。まさか、こんなよい人材を寄越してくれるとは」

「……」


 ラスベルはジッとヘーゼンの方を見つめる。


「気にならないのですか?」

「ん? なにがだ?」

「私の成績は、あなたの点数を越えていたんですよ」

「ああ。素晴らしいよ」

「……」


 これは、果たして本心なのだろうか。自分だったら、悔しい。同年代の者に、自身の点数よりも超える者が現れたら。そんな嫉妬心を、この男は、抱かないのだろうか。


 そんな疑念をよそに、ヘーゼンは次々と話を進めていく。


「学院の単位については、心配しないでくれ。ここでの生活は、課外授業の一環とすることで合意している」

「特にそう言った面での不安はありません」


 バレリア先生経由で、ヴォルト学院長からのお墨付きはすでに得ている。『これくらいはさせてくれ……すまない』というような言葉を贈られて不吉ではいたが。


「また、将官試験に支障がないよう必要であれば家庭教師をしよう。君が、史上最高得点獲得をモチベーションにしているのならば、もちろん力になる」

「そのことで、お聞きしたかったのです。ヘーゼン様はーー」

「様は、堅苦しいな。『さん』付けか呼び捨てで構わない」

「……ヘーゼンさんは、帝国将官試験の首席ではないと聞きました」

「ああ」

「なぜですか?」

「首席を取る意味がないからね」

「……それは、どう言う意味ですか?」


 ラスベルにはまったく意味がわからなかった。高みを目指す以上、全てにおいて高得点の方がいい。結果として、よい部署にも配属されるはずだ。


「平民が首席だと悪目立ちする」

「……」


 その答えに、彼女は若干の失望を覚えた。そう言う小細工を好む性分で、周囲を気遣って生きていると言うことか。


「それに、どちらかと言うと、中央勤務でなく地方に行きたいと考えていた。平民が飛ばされる可能性はもともと高かったが、首席だと中央に引っ張られる可能性もなくはないからな」

「……」


 すべて計算だと言うことか。意外にあざとい男なのかもしれないなとラスベルは思った。


「しかし、抵抗はなかったのですか?」

「ん?」

「テナ学院から立て続けに史上最高得点を取り続けてましたし、首席になり続けようと日々修練をしてきたはずです」


 自分なら手抜きなどは嫌だと思う。あれだけ努力したのだから、どんな目的があれ、崩されるのは本意ではない。


 しかし、ヘーゼンは不思議そうに首を傾げる。


「うーん。別に、首席であろうとしていたわけではないからなぁ」

「で、でもあれだけの高得点を」

「特に試験の準備などしていた訳ではない。授業を普通に受けていて、普通に勉学をこなしていただけだし」


 !?


「……っ」


 思わず、耳を疑った。試験の準備をしていない? なんの対策もなし? 嘘だ。絶対にハッタリだ。


 絶対にこの男は、見栄を張っている。


 ラスベルがジト目で疑念のまなざしを向けるが、そんなことなどお構いなしで、ヘーゼンは話を続ける。


「とりあえず、君はヤンという秘書官の下で働いてもらう」

「……あの、その方は」

「ああ、そろそろ来ることになっている」

「は、はぁ」


 
























 

「もー、すー。私だって予定があるんだから、急な呼び出しは困ります」

「……っ」


 猛烈に年下。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る