友達(2)


 エマという少女は唖然とした。まるで、王子のようなハンサム。王子のような甘い台詞。これが、もしかしたら恋。これから、めくるめくベタ甘ラヴ・ストーリーが始まるんじゃないかしらと予感していた。


「い、今なんて言ったの?」

「僕が君を守るよ」

「その後!」

「だから、僕に魔法を教えてくれないか?」

「……っ」


 どうやら、聞き間違いではないようだが、前後関係がどうしても合わない。守るから、教えて? そもそも、教わってなきゃ守れないのでは?


「あの……守ってくれるんじゃ……」

「もちろん。だから、魔法を教えてくれる? それで、君が買われた喧嘩を、僕が全部撃退してみせるから」

「……っ」


 ニッコリ。


 な、なんだろう。執拗に魔法を求めてくるお陰で、なんか、気のせいか、とんでもなく、ロマンチックに欠けている。


「あの、魔法って言っても……私も生徒だから。そもそも、これから先生方に教えてもらう訳だから」

「いや、無能だと思われたくない。密かに、教えて」

「……っ」


 ニッコリ。


「で、でも。親がすごいって言われてるけど、私はそれほどの魔法使いじゃないんだけど」

「なおのこと好都合。魔法の初歩の初歩。初級編の初級編を教えてほしい」

「えっ……と、それってどこから?」

「とりあえず、魔法を放ちたい」

「……っ」


 ニッコリ。


 こいつは、何を言っているのだろうか。エマは全く理解出来なかった。初歩の初歩? それは、初歩の初歩の初歩だ。そして、5歳ごろの幼児教育で学ぶべきもので、この名門学校でやることじゃない。


「いや、話が合わないよ。そもそも魔法が放たなきゃ、この学校の試験で落ちるし」

「ズルした。いわゆる、不正入学というやつだね。だから、僕、魔法、放てないんだ」

「……っ」


 ニッコリ。


 あまりにも堂々と、愛の告白ならぬ、不正の告白。目の前の男子生徒は何を言っているのだろうか。エマには、まるっきり理解ができない。


「えっ……と。冗談だよね? そんなに簡単に不正なんてできる訳ないし」

「できるよ。この学校は、どちらにしろ弱者は淘汰されるから、そもそも不正入学しようという輩が少ない。だから、試験官なんてザルだった」

「で、でも、実技試験だってあったし……」

「まあ、種明かしは言えないが、僕が今ここにいることがその証拠だよ」

「……っ」


 短い会話の中でも感じる違和感。この男子生徒は笑顔で話せばなんでも許されると思っているのか。


「わ、わ、私は不正はよくないと思う」

「なんで?」

「な、なんでって……みんな、ルール通りに受けてるのに」

「僕もルール通り受けたよ。もちろん、バレたら即失格だった。でも、バレなかったから」

「……っ」


 なんなの。さっきから、発言の全てがヤバい。初対面の印象だと、真面目そうな男子生徒だったのに。若干、影のある笑顔が可愛らしい男の子だったのに。


「……な、なんでそんなことを私に喋るの?」

「だって、僕たち友達じゃないか。君だって身の上を話してくれた。話しにくい話をわざわざ。だから、僕も身の上話をした。ギブ&テイク。まったく対等の存在。それが、友達ってもんだろう?」

「……っ」


 とんでもないことを話された。自分は自分の心が軽くなるように話したのに、逆にこちらは重荷を背負わされた気がする。


 こんな不公平な秘密の告白が、果たして許されるのだろうか。

















「ああ、一つだけ覚えておいて。僕は裏切り者は許さないから」


 



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