拘束
受付の女は、ヘーゼンの放った言葉に唖然とした。もちろん、聞こえなかったのではない。その言葉の意味が、まったく理解できなかったからだ。
「い、今なんて?」
「はぁ、まったく……頭と性格だけじゃなく、耳まで悪いのか。奴隷として役に立つのか、心配になってくる。『勝った方が負けた方を奴隷にできる』、そういうことなのだろう?」
「……っ」
受付の女は、動揺して言葉が出てこない。そんな彼女を尻目に、ヘーゼンは平然と準備運動をする。
「そ、そんな訳ないじゃない! こんな、いたいけな女性をあんたは奴隷にしようって言うの?」
「……いたいけな? 僕の目の前にいるのは、1人に多勢を使って、リンチさせようとしている、卑怯で、性悪で、頭と耳の悪い、クズしか見当たらないが。ああ、性別だけは合ってるかな」
「なっ、なっ、なっ……」
もはや、開いた口が塞がらない。ヘーゼンの悪口が、悪口過ぎて、その口はもはや閉まりようがなかった。それから、彼女は数秒ほどアレコレ考え、妄想し両手を身体に巻きつける。
「ま、まさか、私の身体を弄ぼうと!?」
「……申し訳ないが、まったくと言っていいほど、お前に性的魅力を感じない。まあ、これは僕の感性の問題だから、需要があれば妓館(ぎかん)に派遣することも検討する」
「……っ」
なんたる失礼。規格外の無礼。周囲の男たちも、あまりの言葉に放心している。そんな中、先ほどヘーゼンを連れてきたリーダーらしき大男が苦言を呈する。
「ちょ、ちょっと言い過ぎじゃないか?」
「事実だ。もう一つ言っておけば、僕は君らも奴隷にする。その覚悟があるなら、いつでもその刃を僕に向けたまえ」
「……っ」
なんたる態度。なんという傲慢。もちろん、彼らはヘーゼンの魔力が0ギリであることを知っている。ただ、それ以外の能力は未知数。むしろ、こんな態度を取っておいて、弱いなんてことが果たしてあり得るだろうか。
「ど、どうしたのよ? 早くあの男をぶちのめしなさいよ」
「えっ……と、リドル、お前やれよ」「いや、言い出しっぺはお前じゃないか。お前が行けよ」「リーダーはお前だろう?」「だ、だから、お前に命令してるんじゃねぇか」「ふざけんな! お前が行け」「なんだとこの野郎!」
男たちの中で、押しつけ合いが発生した。仮に攻撃を仕掛けて滅茶苦茶強かったら、その時点で奴隷にさせられる。いいギルドには斡旋して欲しいが、失敗した時のペナルティが割りに合わない。
「だ、誰でもいいから早くあの男をぶちのめしなさいよ!」
「……おい、女。お前が来いよ」
「は、はぁ!?」
「どうやら、奴隷になる覚悟を持たない輩を連れてきたらしい。人を見る目で生計を立てている身としては、その責任は取らなくてはいけないだろう?」
「くっ……」
「断っておくが、僕は弱者だろうと容赦しない。向かってくれば、蹂躙する。さっきは一発殴られたくらいで、泣き叫んでいたが、その比にならないほど、これから、お前を調教してやる」
「はっ……ぐっ……」
受付の女は、震えながら赤く腫れた頬を抑える。これの比にならない痛み。そして、奴隷に堕ち、今後こんな鬼畜な男の下で、死ぬまで酷使されるというのか。
先ほどまで、描いていた光景とはまったく違う。ヘーゼンがリンチされて、泣いて土下座して許しを乞うような光景を夢想していたのに、なぜこんなことに。
「ううっ……あの、許してやってもいいわよ?」
「……誰が誰を許すんだ? あらかじめ断っておくが、僕はお前を許す気なんて、これっぽっちもない。お前がいくら懇願したところで、これからお前を奴隷としてこき使ってやる」
「ひっ……」
受付の女は恐怖した。なぜ、自分はこんな異常な男に喧嘩を売ったのか。そんな自身の浅はかさを後悔した。
そんな様子など気にする訳もなく、ヘーゼンは歪んだ笑みを浮かべて、男たちに対して声をかける。
「おい、君たち。そこの女を縛って拘束しろ」
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