転生魔法使い、ゼロから始めて学院の生徒、教師を蹂躙して最強を目指す
花音小坂(旧ペンネーム はな)
プロローグ
大陸一の国土を誇るノルマンド帝国は、交易が盛んに行われている。特に首都ベイルートでは、昼夜問わず様々な物品が行き交う。必然的に、それらを捌く人材も必要になる。
そして、その受け皿となり得るのが『ギルド』という存在だった。
ギルド本部。その役割は統括機能である。人材の適正を見極め、魔法、戦士、冒険者、鍛治、交易など、様々なギルドに配属している。そこには、一般人の窓口も存在し、コネもツテもない者にとっては、ここでの申請は避けては通れない。
「あなたが登録? ふーん、そう」
受付の女は、品定めするように視線を這わせた。勤務歴15年。今年、30歳を越えたベテランは、それなりに自分の眼に自信を持っていた。
目の前にいるのは、黒髪の青年。肌が若々しく20歳は越えていない。端正な顔立ちで長身だが、華奢な身体だ。女は密かに『肉体労働系のギルドには不適格』と判断した。
「ヘーゼン=ハイムという。まだ、帝都の生活が浅いのでよくわからないのだが、できれば魔法を磨けて、手っ取り早く稼げるギルドに入りたい」
「……
「
「はぁ!?」
女は明らかな敵意と侮蔑をもって、吐き捨てた。魔法使いギルドに入ろうとする者が、魔法の使用に欠かせない
「申し訳ないけれど、ここは一般の職業斡旋所じゃないの。悪いことは言わないから、田舎に帰って村の家業に勤しみなさい」
「……君は魔法使いじゃないから、わからないのだろう。悪いが、他にわかる担当を連れてきてくれないか?」
「なっ!」
受付の女は耳を疑った。ギルド本部のお局的な立ち位置である彼女は、ある意味では影の権力者である。実際、いいギルドに斡旋されるために、気に入られようとする者も相当多い。女は、感情のまま思いきり両手を机に叩きつけた。
「わ・た・しは! これでも、ここで15年以上働いているの。そんな百戦錬磨の私から言わせてみれば、あなたは魔法使いの才能が皆無です!」
「……なら、才能が足りないんだろう。まあ、転職しろとまでは言わないが、少なくともそんな尊大な態度で人に接しない方がいいな。人を見る目で飯を食っておいて、人の見る目がないなんて、役立たずの寄生虫並の価値しかないのだから」
「はっ……くっ……」
受付の女は唖然とした。なんという物言い。こんな屈辱は初めて受けた。このギルド本部に勤めて、これほどまでの扱いは始めて受けた。
若いときは、先輩に酷いことも言われた。心ないギルド員に泣かされたりもした。しかし、これほどまでの罵倒はこれまで経験がない。
「あ、あんたに言われたくないわよ! あんたこそ、何様なのよ!」
「すまないが、詳しくは明かせない。そんな義理も、筋合いもないし」
「あぐっ……くっ……」
なんと言っていいか、まったくわからない。ただ、決めた。こいつだけは絶対にどのギルドにも斡旋しない。魂に誓って、職を辞したとしても、絶対に。それどころか、本部から通達を出して、どのギルドにも永遠に所属させないよう全力で働きかけようと決めた。
「な、なにをやってるんですか?」
そんな2人の口論を聞きつけてきたのは、若い男性の職員だった。受付の女は噛みつくように、イライラを前面に出しながら叫ぶ。
「この変な男がイチャモンつけてくるんですよ!」
「事実だよ。君は人を見る目がない無能だから、他の担当と変われと言っているだけだ」
「き、きいいいいいいいいいいっ」
髪をかきむしって奇声をあげる受付の女。もはや、発狂せんばかりの金切り声で、本部の全員がこちらに注目をする。職員の男は、ちょっと……いや、かなりドン引きしながらも、彼女を諫める。
「落ち着いてください。この方の相手は私がしますから。あなたは、少し席を外してください」
「はぁ!? 正気ですか! 正気でこんな奴の相手をする気ですか! すぐに追い出してください! すぐに衛兵を連れてきてぶっ殺してください!」
「ま、まあまあ」
見境いなくわめき散らす受付の女を、若手の男性職員が諫める。内心面倒くさいと思っているが、いかんせんお局。機嫌を損ねるとやりにくい。なんとか気を落ち着かせようとするが、ヘーゼンはそんな様子などまったく気にしない。心底面倒くさそうにしながら、受付の女に軽蔑の眼差しを向ける。
「まったく……正気を失っているのは君の方だろう。見苦しいことこの上ない。『人の見る目がない』という指摘をしただけで、それほど怒るなんて。君がすべきことは、自分を見つめ直して反省することで、ぎゃあぎゃあとわめきちらすことじゃないはずだよ」
「な、な、な……このやろーーーーーーーー!」
バキッ!
「……」
「……」
「「「「「……」」」」
一瞬にして、場内が静まりかえった。ヘーゼンと名乗った男は、胸ぐらを掴んで殴りかかろうとする受付の女の顔面を、思いきり、躊躇なく、問答無用にぶん殴った。しばし、唖然とする周囲だったが、やがて職員の男が震えながら叫ぶ。
「な、なんてことを! 女性に対して手を挙げるなんて」
「正当防衛だよ。刃向かってくる者には、容赦はしない。僕は男女平等を唱えながら、過剰に女性を擁護するようなエセ人権論者じゃない。男だろうと女だろうと、敵は問答無用で排除する」
「……っ」
危険だ。なんて、危険な男なんだと、職員の男は純粋にそう思った。
一方で放心状態の女は、ジンジンと腫れている左頬を抑えた。やがて、内腔の痛みがピリッと襲ってくる。唇を手のひらで押さえると、血が滲んでいる。
「……えぐっ、えぐっ、ええええええええええええええ、えええええええええええええええええええええ」
泣いた。受付の女は、ここぞとばかりに泣きまくった。しかし、そんなギルド本部内の者で、彼女を助ける者はいない。実のところ、この女の態度には、少なからず腹にすえかねるものがあったからだ。
「はぁ……君は泣けば自分が被害者だと思ってるのか? それとも、弱者のような立ち位置でいれば、誰かが手を差し伸べてくれるとでも? 人に危害を加えようとする者が、人に危害を加えられる覚悟もないのか?」
「ええええええええええええええん! ええええええええええええええええええええええええええええええええんん!」
ヘーゼンは泣きじゃくる彼女に対し、謝罪するどころか、追求を緩めるどころか、容赦なく突き詰める。加害者が反撃を受けて被害者面をする様を、この男はまるで、許す気はない。
そんな中、白髪の老人が奥の部屋から出て来た。
「……どうしたんじゃ、騒々しい」
「マ、マスター! 実はこの方が――」
職員の男が必死に事態の説明を試みる。
ジルザクト=ゼル。華々しい経歴を持ったギルド本部のマスターである。年齢が80を越えるにも関わらずバイタリティに溢れたこの老人は、説明を聞きながらもヘーゼンを見て思わず眼を細める。
「……何者じゃ?」
「詳しくは言えない。ただ、最強の魔法使いがいるギルドを紹介して欲しい」
「なるほど、わかった。おい、君。すぐに測定用の
「い、いいんですか?」
「……ああ。そこの人。一般的な魔法使いは30ギリ。優秀な魔法使いは300ギリ。最強クラスだと3000ギリを越える。お主の魔力がどのレベルかで斡旋するギルドを決めよう」
「なるほど。魔力の数値化か。興味深いな。わかった」
不敵な顔でヘーゼンは笑う。そして、まるで赤子が玩具を差し出されたときのように、測定用の
笑った。
「さあ、最強の魔法使いを紹介してくれ」
「……それで、いいですか?」
「ああ。まだ、この帝国の文字には詳しくない。君が読み上げてくれればいい」
「魔力……0ギリです」
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