1-1 異世界召喚と奴隷少女
僕は、無理矢理体を起こし、意識が覚醒するのを待つ。
意識が覚醒するのには、そこまで時間はいらなかった。
それで僕は、今いる場所を確認しようと辺りを見回した。
赤い絨毯、豪華なシャンデリアに豪華な椅子に座っている王様と王妃様。
そして、その王様と王妃様を守る兵士。
これらの情報から、ここが王室だという事が分かるだろう。
勿論、僕の周りには一緒に転移して来たであろう、神童、丹波、河上さんが寝転がっていた。
「お主が一番早く目覚めたか、ハズレ勇者よ」
あれ?
今なんか、ハズレって言葉が聞こえたんだけど。
聞き間違いかな。
でも、明らかに王様の僕を見る目が他の勇者を見る目と違って、失望の一色で塗り潰されていた。
それで、聞き間違いなんかではなかった事を確信した。
そこで、ようやく他の3人が目覚めた。
その3人を見て「おぉ、やっと目覚めたかの。3人の勇者よ」と王様は言った。
完全に僕は仲間はずれだな。
それで、王様は椅子から立ち上がり、神童たちの目の前まで歩き、立ち止まってこう言った。
「お主たち、3人にはこの世界を救う勇者としてこの世界に召喚した。マリアは、そこのハズレ勇者を頼む」
「はい、ではこっちに来てください」と言って、王妃様は椅子から立ち上がり、僕をこの王室の右端に案内し、こう言った。
「ごめんなさいね。勝手に召喚したのに、ハズレ勇者なんて呼び方をしてしまって。それであなた達を召喚した理由なんですが……」
話が長いので、王妃様の話を要約すると、この世界は今、危機に瀕しており、この危機から世界を救う為に勇者を召喚したのだが、僕はこの世界で最もありふれた職業の治癒術師として転移してしまったため、勇者として全く使えないという事だった。
しかし僕は「大丈夫ですよ。治癒術師は最もなりたかった職業なので。後、僕の名前は【音無 雫】です。でも、流石にハズレ勇者なんて呼び方されて、黙っているほど、僕は弱虫ではありません。なので、一言バシッと王様に言ってもいいですか?」と、真剣な表情で王妃様を見て言った。
「はい、いいですよ。あの人が悪いんですから。それで、シズク君。これは、私からのほんのお詫びです。では、これから頑張ってくださいね。応援してます」
そう言って、王妃様は僕を抱きしめた。
王妃様は、ずっとこのままでいたいと思ってしまうくらい暖かく、いい匂いがしたのだが、僕は王妃様から離れると王様の前まで歩いて、こう言った。
「王様。僕はハズレ勇者なんかではありません。治癒術師は最強の職業です。それを僕が証明してあげましょう。まぁ、証明する事が出来ても、僕はこの世界は救いませんし、あなた達に手を貸すつもりもありません。ハッキリ言って、僕はあなたが嫌いです。では、失礼します」
そう言って、僕はこの王室から出るために歩き出そうと一歩踏み出したら、背中からお腹にかけて激痛が走った。
何故かと言うと、兵士の槍で刺されたからだ。
それでこの世界の兵士は、十二分に強い事が分かった。
どうして分かったのかと言うと、その兵士の動きには音が無く、一つ一つの動作が速かったからだ。
それに、あの王様はいつこの命令を与えたのかも分からない。
「ゴポッ」
僕は口から血を吐き出した。
その後すぐに兵士は僕を刺した槍を抜いて、血を払っているが、僕は膝から崩れ落ちた。
この時、死を覚悟したのだが、一向に僕が死ぬ事は無かった。
何でだ? と僕は不思議に思い、右手で恐る恐る槍で刺された場所を触れてみた。
そしたら、あるはずの傷が塞がっていたのだ。
これが、治癒術師の力なのかは、分からないが僕はすっと立ち上がり、王様の方へ向き直り、こう言った。
「痛いじゃないですか。急に刺して来ないで下さい。ビックリしたじゃないですか」と。
「何で死なない!」
何で、この王様は分かりきっている事を聞いてくるのだろうか。
「分かってるでしょう。これは、治癒術師の力ですよ。《スキル》、【再生】。こんな《スキル》を持っている治癒術師が使えないと言ったあなたは、アホなんじゃないですか?」
【再生】 ある一定以上の傷を受けると、自動的に再生する。
【再生】っていうのは、ついさっき頭によぎっただけであって、本当にさっきのがそうなのかという事は分からない。
「音無、それぐらいにしときなよ」
そう神童は言った。
僕は神童の言う通りだなと思って、クラスメイトにこう言って、王室から出た。
「頑張ってこの異世界を救って下さい! 僕は、この異世界を好き勝手に堪能するんで」と。
王室から出た俺は、国をぶらぶらと歩いていた。
「しかし、さっきの【再生】は凄かったな。時間も対して経っていなかった筈なのに、完璧に塞がっていた。やっぱり治癒術師って強いんじゃないか?」
……そんなわけないよなぁ。
さっきの【再生】を見るに、死ぬ事はさほどの事が起こらない限り無いとは思うが、職業名からして、戦闘に向いていないから、敵を倒す事もままならないだろう。
やっぱり僕の矛となってくれる人が必要だな。
そう思いながら、ある裏道に入る。
その裏道で、鉄の檻が目に入って来た。
看板があるが文字が読めない為、何がいるのか分からなかった。
僕は裏道から出ようとしたのだが、ある男の声に止められた。
「そこの少年、奴隷はいらないかい?この子は病気を患っていて、安いよ」
奴隷。
奴隷は、人間でありながら所有の客体即ち所有物とされる者で、人間としての名誉、権利・自由を認められず、他人の所有物として取り扱われ、所有者の全的支配に服し、労働を強制され、譲渡・売買の対象とされた者たちの事。
高校生にもなれば、奴隷というのがどういうものなのかぐらい分かっているから、早くこの場から立ち去りたかったのだが、出来なかった。
さっき、奴隷商人の人が言っていた女の子が気になって仕方がないのだ。
その女の子は、膝を抱えて微動だにせず、ずっと正面だけを見つめていた。
そして、その女の子は何より痩せ細っていた。
満足にご飯を食べる事が出来ていないんだとすぐに理解する事が出来る程に。
だから、僕は「あの、その子買いたいんですけど、いいですか?」と聞いた。
そうすると、奴隷商人は「その子で良いのかい?その子なら金貨1枚だよ」と言ってきた。
さっき王妃様にもらったお金は、金貨10枚だったのだが、金貨というのがどれぐらいの相場なのかが分からない以上、使いたくはなかったが、ここは仕方がない。
「これでいいのか?」と金貨を入れていた袋から取り出して渡した。
「はい、大丈夫です。では少しお待ちください」と言って、奴隷商人は鉄の檻からその少女を出して、僕の所まで連れてきて 「あなたの名前を教えてください」と言ってきた。
名前ぐらい教えてもいいのだが、心配な事があったから聞いた。
「誰にも僕の名前を口にしたりしないか?」と。
そしたら「大丈夫ですよ。口にしたりなんかしません。お客様ですから」と返してきた。
僕は、その返答に納得して名前を教えた。
「オトナシ シズクで間違いないでしょうか?」
「はい、間違いないです」
名前を聞いた奴隷商人は、その少女に何らかの刻印を右手の甲に刻み、僕に渡してきた。
その少女は刻印を刻まれた時、よっぽど痛いのか、絶叫していた。
今もプルプルと少女の体は震えている。
「さっきのは?」
「見た事ないですか? 奴隷刻印は」
「はい、無いです」
「奴隷刻印は、刻まれた者の自由を奪う物です。例えば、主人様に不利益な事をした場合には、刻印を刻まれた者に罰を与えたり、1日に5回は必ず主人様の命令を聞かなければならない。などがあります」
「へぇ、そんなもんなのか。じゃあもう行くよ」
「またのお越しをお待ちしております」
絶対行くわけないだろ!
そう思いながら、少女の手を引っ張って裏道を出た。
「なぁ、言う事を聞いておくれよ」
「……」
今、僕たちはある宿屋の一室にいる。
そこで、さっきから何度も名前を聞いているのだが、全く応えてくれない。
「はぁ、もういいよ。取り敢えず、体でも洗ってきて」と言って、シャワールームに連れて行ったのだが、体を洗う気が少女には全く無かった。
「洗ってよー、頼むよー」
「……」
「はぁ、じゃあいいよ。僕が洗ってあげるから」
何で、僕が体を洗ってあげなきゃいけないんだよ。
そうブツブツと呟きながら、少女の体を洗う。
体を洗っていると、嫌でも分かるのだが、少女の体には一切肉が無いのだ。
「お前さぁ、いつからご飯を満足に食べれてないんだ?」
「……」
「無視か?」
「……」
「そうかい、そうかい」
ここからは、無言で少女の体を洗ってあげた。
体を洗い終え、体を拭き、髪の毛を乾かしてから気付いたのだが、少女の服が無いことに気が付いた。
「あちゃー、服を買って来なきゃ」
「……」
「また無視か、……恥ずかしく無いの? そんな素っ裸で」
「……」
「服を買って来るから、ここで大人しく待っててね」
僕は、宿屋から出て子供用の服が売ってある店を、この国に住んでいる人に聞き込みながら、やっと見つけ出して買った。
「帰ってきたぞって、おい大丈夫か?」
そういや、奴隷商人が言ってたっけ。
病気を患ってるって。
僕は少女の側まで駆け寄り、抱き上げて様子を見る。
少女の体は熱く、息が荒い。
今から、病院的な物を探し出すのは難しいから、僕が何とかするしかない。
僕が何が出来るのかが分かれば、いいのだが。
「おい、お前。ステータスとか見る方法とか無いのか?」
「……」
「お前の命がかかってんだぞ!」
「……」
「くそっ、言う事を聞け!」
僕は、1日に5回は必ず命令を聞かなければならない、絶対命令権を使って聞いた。
「ステータスとか見る方法は無いのか?」
「ある」
一つ目。
「じゃあ、どうやってすればいいんだ?」
「思い描けばいい」
二つ目。
「何を思い描くんだ?」
「自分のステータス」
三つ目。
自分のステータスを思い描くって何なのかは、分からないが、ステータスが分からなければ少女の命が危ない。
ステータスを思い描くために、神経を集中する。
薄っすらだけど、文字が見えてきた。
後、もう少しだ。
徐々に文字が濃くなってきた。
そして、遂に見る事が出来た。
僕が見えた文字の内容は、次の通りだ。
音無 雫 15歳 男 ヒューマン
職業 治癒術師
【HP 3/3】 【MP 27/27】
攻撃 2
防御 3
敏捷 6
器用 10
魔力 24
《スキル》 再生 常時回復 状態異常無効 癒光 癒輪 省エネ
《スキルポイント》 0
《加護》 無し
《称号》 ハズレ勇者
よく分からないけど、この【癒光】っていうのを使ってみよう。
僕の体が淡く光り出し、その光が少女を包み込む。
その光は、温度的な温かさは無いが、何かに抱き締められているようなそんな感じがして、暖かかった。
体が少しずつ冷え始めて、息も整い始めた。
何とか成功したようだな。
あれ?
なんか眠くなってきた。
魔力っていうものを使い過ぎたのかもしれないな。
僕は、ゆっくり眠りへと落ちていった。
「今までより、ずっと体が軽い。」
私は、側に倒れていた男の人に目が行った。
「もしかして、私を助けてくれたのはこの人、なのかな?」
私は、今日の昼頃からずっと話しかけられていたんだけど、それを無視していた。
仲良くなって捨てられるくらいなら、最初から仲良くならない方がいいと思うから。
でも、この人なら。
私を捨てたりなんてしないかな?
そう思いながら、その男の人の隣でまた眠りについた。
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