異世界学園の日本人─亜人や獣人達に戦闘技術知識共に劣るが努力で抗う─
水源+α
プロローグ
───春。
俺は家の前を桜が舞い散る中、黄色い声を上げながら通りすぎていく学生服を身に付けている人達を窓から眺めて、そう確信する。
この風景は何だか新鮮なものだった。
毎日こうして見られる方が俺なので、こうやって見るとなんだか大人になった気分である。
それでも格好は通りすぎていく学生と同じ制服を着ているため、大人ではない。
勿論、自分でも大人ではないと思っている。
結構だらしない生活を休日では一日中してるのだ。
大人であれば最低限度で踏みとどまれることができる(?)のではないだろうか。
「
と、自室の扉の向こう側から可愛らしい妹の声が聞こえる。
「分かった! 今行く!」
そう声を張り上げると、妹は返事を確認したのか階段を降りる音が聞こえる。
俺もお腹を空いているので早く降りるとしよう。
───「いただきます」
目の前に並ぶ卵焼きとベーコンを絡ませて作った料理にケチャップをかけてからありつく。
度々ご飯と味噌汁にも手をつけて、母が作った美味な料理を堪能する。
『昨日の午前一時頃、世田谷区で強盗───』
強盗とか物騒だな......と、そこだけ聞いて何が起こったのか理解出来たため、また食べ始める。
朝は大体、ニュースを小耳に挟みながら朝食を食べるのが俺の習慣だ。いや、皆も実際はそうではないのか。
殺人なんて聞いてもさっきの強盗みたいに物騒だな~、だとしか思えず、スポーツ選手が活躍している報道を聞いてもへぇ~......だとしか思えない。
例外はあるが、それは好みに分かれるとかしか言いようがない。
殺人の報道を聞いて嬉しそうに聞くサイコパスも居れば、自分が夢中になっているスポーツ選手の活躍を嬉しそうに聞く人も居るって訳だ。
なんか不釣り合いな例えだが......そう、好みなのだ。
因みに俺が今一番嬉々として見てるニュースは世界でも注目されている出来事だ。
それは後のニュースで出てくるから良いとして......美味かった~。
「......ふぅ~、ごっつぁん!」
俺が無意識にそういうと、向かいに座っている活発な黒髪の短いポニーテールの結菜に渋い顔をされた。
「ちゃんこ鍋じゃないよね......? 今日の朝食」
───
「よっしゃ、じゃあ今から俺とぶつかり稽古するか? 楽しいぞ、主に俺が」
(胸が当たったりとかな!)
俺が胸を見ながらそう言うと結菜は冷気をも感じさせる満面な笑顔でこう言った。
「え? じゃあ私もキックの練習させて?」
(股間に蹴りを入れてやる......)
と、俺の股間を見ながら言ってくる結菜に、俺は早急に白旗を上げた。
「降参します。男は絶対に守るべきものが......そこにあるっ......」
「よろしい」
冗談で言ったつもりだが、冗談でも限度があることを改めて理解させられた俺は静かに着席する。
「そういえばなんで結菜って付き合わないの? もしかして義兄である俺が好きなパターン?」
「っ!?.................. そ、そんなことないでしょおっ!?」
と、気になったことをまた冗談で言ったつもりなのだが、この後こっぴどく怒られた。
───『次のニュースです』
家から後五分で出るとき、俺が嬉々として見ることができる報道がついに流れる。
『四月九日、ついに今日をもって世界と世界を繋ぐ学園都市がオープンされました。この取り組みは十年前に起こった次元の歪みによる理由で太平洋の二分の一を覆う異世界の大陸が突然出現し、一時の混乱が襲った太平洋事件から十年間、日本政府が先駆けて交流を続けた結果です。異世界側も最初の二年間交流を続けていく内に関係が打ち解け、そして約八年後、ついに日本と異世界側の主要国家ジェスト王国共同学園都市が完成しました。今日は学園都市オープン記念式典と、これからのこちらの世界とあちらの世界の交流の架け橋となるカルディナ学園の入学式の記念すべき日ということで、世界中から注目されています。学園都市は異世界の大陸、ユーシュラ大陸の北の方に位置していますが移動手───』
「翔兄ぃここに行くんでしょ? いいなぁ~」
テレビに写されているビルと異世界の建物が入り交じっている広大な都市を羨望する結菜。
「ふふ~ん。そうだろう?」
───そう。
俺が何で嬉々としてこの報道を聞いてるかというと、俺がこの学園に今から行くためである。
十年前に戦争にもなりかけた国同士の関係が、まさか十年間でここまで仲良くなるとは思わずなかったが、これが仲良くなった結果である。
そして俺が、この国から行く3000人の謂わば日本代表。そして日本人しか行かないため、所謂世界代表の中の一人として選ばれたわけだ。
こんなに嬉しいことはないだろう。
「へぇ~、世界中のメディアも来るんだってね?」
「もしかしたら写っちゃうかもな......お、そろそろだな」
「うん......いってらっしゃい」
と、何故か寂しい顔を浮かべた結菜。
「ふふっ、何だよ......別に離ればなれになる訳じゃない。学校が終わったらここに帰ってこれるじゃん。そんな寂しそうな顔すんな」
「だって......もしかしたら翔兄ぃが向こうの人に乱暴されないかなって......」
(心配してくれるのか......)
俺がそう嬉しく思っていると
「翔兄ぃ生意気だし......」「おい」
そんな結菜に、俺は出来るだけ心配させたくないと笑顔を浮かべた。
「でもほら、外交問題みたいなもんがあるだろうし、そう簡単に殴られたりしない大丈夫だ。俺も失礼がないように行動するし、これまでだって面倒事起こしたりなんかしてないだろ?」
「うん......」
「......」
(普段の結菜だったら想像できない状態だな~......さーてどうすっかね~。こういうときは......こういうのが無難かな?)
俺は鞄の中を漁り、一つの御守りを出した。
(これでいいかな......)
「結菜、はいこれ」
「え?」
結菜は目を見開きながら差し出された御守りを手に取り、ゆっくりと持ち上げる。
「......これって?」
「それは俺がカルディナ学園の受験を受けた時に持ってた御守り。中二からあの学園の情報を聞いてから、カルディナ学園の第一期生になりたいと憧れて買った御守りでボロボロなんだけど、まぁ一応持っててくれ。それで来年の高校受験を受けるのも良し、捨てても良しだ」
結菜の両肩に手をゆっくりと置きながら、苦手でぎこちないウィンクをした。
「それを俺だと思っておけばいい。ボロボロな御守りとかまさに俺に似合ってるしな」
結菜は呆然としてたが、次には結菜らしい笑顔を浮かべた。
「なにそれ~......ふふっ。......うん、分かった。ありがと翔兄ぃ」
「......おう。じゃあいってきます」
「うん! 行ってらっしゃい!」
扉を開き、外へと踏み出す。
俺はそんな後ろから響く可愛い妹の声でエネルギーチャージしたあと、気持ちよく移動手段に使用するあるものがある所へ向かうのだった。
********************
移動手段は転移ゲートだ。
一瞬にして神奈川のここから、あの太平洋に浮かぶユーシュラ大陸へとひとっ飛びで行ける。
まさにド○クエの移動魔法のルー○みたいだ。
「ほぇ~......こりゃでけぇな......」
俺は徒歩20分で政府が七日前に設置した転移ゲートの前に居た。
目の前にあるのは、大きさ縦七メートル横も七メートルぐらいの大きさの白銀の光沢を放っている神秘的な鏡だった。
(お、早速行く人居るみたいだ)
俺は並んでいる五人の後ろに並び、先頭のインテリそうな眼鏡男子が転移ゲートを使用するみたいだったのでどう起動し、どうここから姿を消すのか気になり観察していると。
「おぉ......」
なんとインテリ眼鏡男子が鏡の中に入っていくではないか。
「すげぇ......」
「本当なの......?」
前に並んでいる男女が俺と同じように驚嘆している。
「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおお......」」」」」
勿論、転移ゲートという未知の存在の周りには大勢の野次馬がいるため、それらも驚嘆している。
俺の耳では翻訳できないほどに大勢の人が様々な声を発しているので少し鬱陶しい気持ちだ。
(あれ......? てか今通勤の時間帯のはずだよな? この野次馬達まさか......)
スマホを取りだし、八時五分と画面に表示されているのを視認する。
(暇人......? サボり......?)
首を傾げていると、気がつけば俺の番まであと一人になっていた。
(な、なんか緊張するぞい......)
そう思っていると
「わっ......わぁ!?」
目の前で女子が少しキョドりながら鏡の中に吸い込まれていく。
(やべ......ちょっと萌えたっ......)
女子のキョドった声にそんなことを思ったあと、俺もあそこに入るのだと決心をする。
「よし......」
俺はこれから今まで経験したことがない未知の領域に行く。
不安もあるが、すごく楽しみでもある。
異世界と聞いただけで、心は一瞬にして好奇心旺盛な心に変化する。
「行くか「───翔兄ぃ!」えっ......結菜?」
野次馬の中に、俺はそんな聞き覚えのある声の方向に立ち止まり、勢いよく振り向く。
走ってきたのか首や頬に微量の汗をたらしながら、膝に手をついていた。
「翔兄ぃ! これ!」
結菜は俺の方にあるものを投げた。
「おっと......ん? これって......」
俺は投げられた黒いバックのチャックを開けると、使い潰されたスパイクとサッカーボールやソックス、すね当てなどが入っていた。
(結菜......)
「翔兄ぃ小学校から9年間やって来たんでしょ! ここで止めたら損だよ! 続けて!」
そう叫んだ結菜に、俺も叫び返す。
「おう! ありがとな結菜! 続けるよ!」
俺のそんな言葉に、結菜は野次馬から顔を覗かせ、満面な笑顔を浮かべた。
「うんっ!」
(全く、お節介だな......)
俺は苦笑し、妹からあんな最高の笑顔をゲットできたんだと嬉しく思いながら俺は黒いバック背負い直し、勢いよく転移ゲートへ走り、そして
────異世界へと転移した。
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