貴様らが何処に隠れようが、上を見上げれば光が照らしている、それが私だ⑥

「そうか、報告御苦労。負傷者を最優先しろ、死者は手の空いている者に捜索させろ……はぁ……」


「すまぬな、この髪の所為じゃ。ヨトゥンが這い出て来る隙を与えてしまった」


「その金の髪、その匂い。惨めなものだな貴様は、どうせ誰にも言えていないんだろ。私からは言わん、言いたい時に言いたい奴に言えば良いさ。クソみたいな腕力と軽い体になったと思えば、そういう事だったか」


「……そうか、気付かれておるなら仕方が無い。カミラの言う通りだ、私は徐々に男から女に変化しておる。ロキの魔法か、力を封印してこの体を器としたからか」


「そんなもの何でも良い、兎も角完全にクソになる前に決着をつける。そう思っていたがそうもいかんらしいな、帝国に忍ばせておいた間者から魔法が来た。神王陛下、最果ての塔に帰還。戦争終結の方針らしいな」


寝転がらずに私に寄り掛かっていたカミラが、忌々しいとでも言いたげに民家の柱を叩く。

嫌に響く音が徐々に大きくなっていき、案の定、広がる亀裂から屋根を支えられなくなり、先程まで隣にあった家が潰れる。


小さくない音に近衛の騎士が数人走って来て、「いかがなされました」と辺りを警戒しながら聞いてくる。


「……くっ、ふふふふふふふふ、ははははははっ。心配ない、それより持ち場に戻れ。ふふふっ、可笑しいな子犬」


「なにが可笑しい事があるか戯け、この家の住民に悪いと思わんのか。結局貴様の起こした問題の尻拭いは私に回ってくるのではないか」


様々な魔法を組み合わせて家をひとつひとつ直していき、謝礼として少量の金塊を家の中に置いておく。

久し振りに笑う姿を見たと思ったら、まさか民草の家を潰しての事であるのは、到底理解し難いものだろう。


「くっははははははははっ、そうじゃなカミラ。笑おう、悲しみも」


それまで何も感じなかった心だったが、戦争による疲れと、訓練兵の綺麗な眠る顔を見ていると、楽しい事がなくても、何も無くても何故か笑えてしまう。

カミラが見切り発車と罵った青年が静かに横たわり、あの日何故メルトを庇ったのかを聞きそびれてしまった。


種族の隔たりを超えて見られた行動の意味は、結局は戦争によって押し潰されてしまい、未来なんて誰も見ることが出来なくなった。

これからカミラが遺族にこの知らせを持ってくとなると、その心労は計り兼ねる。


「余計な事を考えるな、子犬はらしくしてろ。慣れない事をすると疲れる」


「おぬし時々怖いな」


「私が指導したやつの事は何となく分かる、これでも長く訓練官をやっているからな」


「そうじゃな、さぁ長らく戦もなかろう。力を蓄えるとしよう」


「私が鍛え直してやろう、女だろうが以前の様にしてやる」


「本当に怖いやつじゃな、だがまずは体を治さねばならん。私の体が壊れてしまう」


私の背中を思い切り叩いて歩いていった背中を追い掛けて、背中を叩き返して走る。

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