貴様らが何処に隠れようが、上を見上げれば光が照らしている、それが私だ⑤

「違う……違う違う違う! 逃げてばかりじゃ君じゃないトール、オーディンも違う、他の神は論外。なら君以外誰が居るんだ、君は期待に答えてくれる筈でしょ!」


「チッ、勝手な事を言いやがって……貴様に期待されたからと言って、私がカミラに手を出すと思うなよ!」


空中で繰り広げられている一方的なドッグファイト眺めるロキに向かい、幾つもの魔弾を乱打して黙らせようとするが、全て幻影を掻き消すだけに終わる。

いつの間にか高度を上げて速度を落としていたカミラに、ただ旋回していただけの私はたやすく背後に回られる。


飛来する風に煽られながら、バランスを崩さない様に風を読むが、鱗と翼に幾つもの傷が付いて血が滲む。

全力で魔法を撃ってくるカミラの魔力が尽きるのを待ちたいが、生憎、旧帝国魔導部隊魔導師長である大魔導師なら、自分の間力が尽きる前に私の動きを完璧に捉えるだろう。


直角に高度を下げ、空中でターンして岩に足を着き、カミラに向かって跳躍して真正面から突っ込む。


「こんな巫山戯たドッグファイトは終わりだ……落ちろ」


両腕ごと抱き締めながら地面に向かって急降下して、頭から地面に突っ込ませて離脱する。


「手を出せないとでも思っていたかロキ」


「思ってたね君なら、本当につまんないや。結局堕落したままで黙らせてしまうし」


がっかりした顔で立っていたロキの胸倉を掴んで引き寄せ、にこにこと何かが可笑しいと言った顔をしている。

長い髪を揺らす程の小さくて穏やかな風が吹くと同時に屈み、背後から魔力を込めた短剣を振り下ろしたカミラの一撃を避け、掴んでいたロキに突き立てさせる。


「よくやった子犬、だがもう少し加減を覚えろ」


「だが、本当に敵対してみせたであろう。もう悩む事はやめよう、私はもうあの日の私ではない。今はこの喋り方が性に合っておる」


「そうか、それもまた貴様ならそれにしておけ。それでクソ遊び人、どう落とし前をつける気だ?」


喉に突き刺さった短剣の隙間から漏れる呼吸の音が痛々しく、怒りが頂点に達したカミラの怖さと無情さを裏付ける。

短剣を荒々しく抜いて傷口を広げ、髪を掴んで顔を上げさせる。


「喋れなさそうだな、苦しそうで何よりだ」


「そ……だね、これ、で……しっ、いさせ……て、よ」


ロキが逃げる前に振るわれた短剣が数本の髪を斬るが、それ以外何も傷を付ける事がなかった。

血で濡れた短剣を布で拭き終えたカミラを待っていると、私の胸に額を付けて黙り込んでしまう。


「どうしたのだ」


「クソみたいな日だな、疲れ過ぎて吐きそうだ。前も見えんし力も入らん、本当にクソみたいな日だ」


「私が支えよう、だが回復したらすぐに自分で歩くのだぞ」


「あぁ、分かってい……きゃぁ!」


体重を私に預けていたカミラをお姫様抱っこで持ち上げた瞬間、らしくもない叫び声を上げて首に腕を回してくる。

弱々しい力で必死にしがみついて来るカミラを優しく抱き締めると、少しずつ力が緩まって落ち着く。


「さて、公国騎士とかなり離れたみたいじゃな。アリスは大丈夫であろうか、人間に任せて良かったのだろうか」


「私の判断が信じられんかクソドラゴン、帝国が街を突破している事はないだろう。さぁ行け子犬パピー


「何も見えないからと声を上げるでないぞお犬様、不安であれば撫でながら行ってやろう」


「とっとと行けクソドラゴン、ついでに私に回復魔法でも掛けろ。1秒でも早くお前から離れたい」


横暴なカミラの言う通りに回復魔法を掛け続け、ぼろぼろのままの翼を羽ばたかせながら街に向かう。

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