君の心が動くまで⑦

目立った行動が出来ない為、陸からナイグラート龍王国を出る事にした私たちは、馬車に揺られて国境警備の検問に挑む。

私を運ばなくても良いパラシュはミョルニルと共に姿を消し、体の小さな私とアリスの親役と言う事で、少し若いが、見た目が一番大人な青年がその役になった。


「お前人間か?」


「違う、龍人だ」


「ならば何故角と尻尾と翼が無いのだ」


「外の国に行くんだ、出来るだけ隠しておきたいだろ」


早速行き詰まった検問を馬車の中で聞いていると、少年が話している方の壁が、何度もノックされ、助けを求められる。

それを遊びと勘違いしたアリスは壁を叩き返し、帰ってくるノックに対して、まるで少年が血塗れで突っ込んで来たかのように笑う。


「笑えぬな、はははっ」


1人でそんなツッコミを終わらせて馬車から降り、警備兵の前に止まり、青年の手を取って甘い声を出す。


「まだお外に出れないの?」


気持ち悪い自分の演技に頭の中で悶絶していると、龍人要素が全てある私を見て納得したのか、あっさりと通過する事が出来た。

検問を通過して暫く馬車に揺られ、我慢出来ずに茂みの中に嘔吐する。


「どうしたんだアイネ、馬車酔いか?」


「いや、私の演技が実に気持ち悪くての。悶絶ものだあれは」


「大丈夫だ、ちゃんとキラキラ付けといてやるからな。気が済むまで吐け」


荷物の中に隠れていたナーガが心配そうに隣に立ち、私の背中をさすりながら長い髪を結んでくれる。

漸く収まった吐き気が戻ってこない内に馬車に乗り、少し離れた大きな森の中に入る。


人目が無いところで体の大きさを元に戻すと、今まで窮屈だった体が、少しだけ伸ばせた感覚がする。

このまま一気にドラゴンの姿になりたいが、生憎そんな龍力も残っていないし、寝転がっているだけで精一杯だ。


「大丈夫だったんですかアイネさん、先程は立ち上がっていましたが」


「なに、心配は要らぬさナーガ。それよりもエルデグラートじゃな、おぬしが消えていたら捜させるじゃろうな」


「心配無いですよ、次は私から頑張って言います。こちらの道を選んだと」


「次は私がやるから、アイネは寝ててね」


私の隣で再び錆びた剣を抜こうとしているアリスは、一旦落ち着いてからもう1度力を入れる。

馬車を運転していた男が降りて来ると、これからの行き先を聞いてくる。


「ヤーパンに行ってくれぬか」


「ヤーパンですか……近頃は内紛によって入国すら厳しい国と聞きますが」


「オシナのやつ、成程な。では、この近くにあるリーリンに向かってくれ。中立都市ならば心配無かろう」


「分かりました」


再び消えた運転手が妙に怯えていた気がしたが、それ程までにヤーパン国は荒れているのだろうか。

リーリンで待っているであろう鈴鹿と合流し、内情を聞けば分かることだろうと、今は痛みに耐える為にじっとする。

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