王城にて
王城のとある一室。
もう夜明けに近かったが、僕達は個室のベッドルームが複数ある、大きな客室に通された。テーブルには軽食も用意されていたが、まだ夜中なので食欲はなかった。
エドガーも食事には手をつけず、水をがぶ飲みしてソファーに身を沈める。
「あぁ、疲れた……」
「ご苦労様。エドガーも、かなり魔力使ったでしょう? 一応飲んどく?」
僕が差し出したのは回復薬。
魔力の持続回復も促すので、今のエドガーにはぴったりだろう。
「……もらう。あんまり魔力減ったまま寝ると、頭痛くなるし」
「そうなんだ? じゃあ、ほら早く飲んで、ちゃんとベッドで寝たほうがいいよ」
半分船をこぎながら薬を飲み干したエドガーが、ソファーでひっくり返ったのを見て、慌ててベッドルームへと連れて行った。
ベッドへ放り込むと、それこそ電池が切れたように眠ってしまう。エドガーの寝つきの良さには、いつもながら感心する。
僕の方は、魔力こそたいして減ってなかったが、ひどく疲れていたので回復薬を一つ飲んで、ひとまず広間のソファーに腰かけた。
ニーナは、第一報を国王陛下へ報告すると言っていた。
僕達との正式の謁見は、アンソニー王子の経過を見るためにも翌々日となった。すでに、朝方なので正確には翌日になる。
そんな中、安らかな寝息を立てているだろうエドガーを羨ましく思いつつ、僕は一人、なかなか訪れない睡魔に辟易としていた。疲れてはいるのだけど、頭はすっかり活動モードで固定されている。いわゆる交感神経がバリバリの状態だ。
もっとわかりやすく言えば、興奮状態なのだ。
はやくユアン先生にも報告したい。もちろん、これは今すぐ発表できる類のものではない。それに、簡単に作れるものではないのも事実だ。
今回は、成功するための要素が、運よく集まったに過ぎない。
レア度の高い素材もそうだし、大量の魔水を呪文の一つで作ることが出来るエドガーがいたこと、そして何より完成精度を上げることが出来る色違いのべス草の発見。
いくら薬作りが得意な僕でも、限られた貴重な素材で高レベルな完成度を作らなくてはいけないとなれば、さすがに尻込みしただろう。
本当に、結果オーライだった。
空が白み始めたのを見て、さすがにベッドに入ったが、一向に眠気は襲ってこなかった。
それから僕は、埒も開かないことを繰り返し考えては、寝なくては! と急かされるように目をつぶり、しばらくすると考え事にふけっていることに気が付いて、慌てて布団を頭からかぶるという不毛な時間を繰り返すことになった。
※※※
「お? 寝坊助がようやく起きたようだぞ」
ぽかりと目を開けると、そこにはエドガーの笑顔があった。
「……あれ? ここ……なんだっけ」
「おはよう、リュシアン。よく寝てたわね……ふふ、すごい寝癖ね」
無意識のまま起き上がった僕に、ニーナの半分笑ったような声がかぶさる。
見覚えのないベッドを見回して、なかなか頭がついてこなかったが、ベッドに手を突いて身を乗り出したニーナを見るに至り、さすがに事の次第を思い出したのだった。
慌てて着替えて、僕はニーナ達が待つ客間へと向かった。
「お前いつまで寝てるんだよ。ほぼ丸一日寝てたぞ」
「仕方がないわよ! リュシアンは本当にスゴイことをしたんだから!」
なんかもう、ニーナがいろいろ全開だ。
瞳はキラキラ、髪はつやつや、笑顔は弾けんばかりである。この様子からすると、アンソニー王子の回復具合は至って良好なのだろう。
「僕そんなに寝てた? って、あれ? 丸一日? いまって何時」
「だから今日は、約束してた国王陛下との謁見の日だ」
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