夕食
今日はもうできることもないので、アリソンさんが夕食を提供してくれた。
もちろん、自慢のシチューである。作り方に興味があったので、無理やり手伝いをさせてもらい、ちゃっかりレシピを聞いた。
普通の田舎料理よ、などと謙遜していたが、彼女は嬉しそうに作り方を教えてくれた。本当に美味しいので、今度みんなに作ってあげよう。
明日は井戸を浄化して、リィブに報告に行かなければならない。それに、どうやらリンやディリィとも顔見知りのようだし……。
食事中、カエデは興奮したようにダンジョンでの出来事を母親に話していた。なにしろ、彼女もまた初クエストだったのだ。
「それで、そのリン……さんだったかしら? 一緒にこちらから出てきたのよね」
「はい、そこまで一緒だったんですが」
寄ってもらえばよかったのに、とアリソンさんは残念そうだ。
結局、あれからリンもそのまま僕たちと地上へ上った。リンは、テレパス持ちの魔獣や魔族となら、他人の従魔であっても多少の交流はできるようなので、ディリィさんにはすでに伝えているとのことだった。
溺れかけた通路に戻る勇気はないからね、とリンは笑っていた。
ディリィさんの従魔はリトルハーピーという魔族らしい。ハーピーというと、人の身体に腕が翼で鳥の足というイメージだけど、どうやらリトルハーピーの姿はほとんど小鳥と変わらないとのことだ。魔族ってことだけど、ペシュみたいに人型になったりするのかな。
「リンさん……リンは、ダンジョンを出た先が、リィブの湖すぐそばだと知って驚いていました」
「その麒麟さんといい、リュシアン君は顔が広いわね」
ちょっとズレたアリソンさんの物言いに、思わず苦笑してしまう。
顔が広いも何も、僕の感覚的にはほぼ初対面の人ばかりである。ここへ迷い込んで数日で、新たな出会いの連続で正直なところ少し混乱気味なのだ。結局、ほとんど何も聞かないうちに、リンともバタバタと別れてしまったし――。
ダンジョンから出て少し歩いたところで、リンは何かに呼ばれたように空を見上げると、僕を呼び止めて立ち止まった。
「リュシアン、ひとまずお別れだ。あ、そうそう、それとボクのことはリンでいいよ。ディリィも他人行儀に呼ばれたらしょんぼりしちゃうから、やめてあげてね。あと、……んー、これは後でいいか……じゃあ、ボクはこれで! ここまでありがとう、助かったよ」
最後にそれだけを言って、それこそ引き留める間もなく、あっという間に麒麟の姿に変わって上空へと駆け出していった。
麒麟って翼もないのに飛べるんだ!? なんて、呆気に取られているうちに、その姿は見えなくなってしまった。地上に戻ったら、いろいろ聞こうと思っていた僕は、ちょっぴり……というかかなりガッカリだった。
もちろん、一人残してきたディリィさんが心配だったんだろうし、仕方がないのかもしれないけれど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます