ゾラの能力

 二階層に下りた途端、さっそくエンカウントした。

 カエデが階段を下りた際に、モンスターを踏んづけたのだ。……てか、ちっさ!


「ロックワームよ! ごめん、踏んじゃった。こいつったら岩と同じ色に擬態するのよ」


 ショックを受けると元の色に戻るらしく、カエデが踏んだところは肌色になっている。まんま姿はミミズだった。モンスターにしては小型かな、例えるならアスパラガスくらいの大きさ? ただ、それが大量にうじゃうじゃいるのだ。

 手に入る素材は土。倒すと大量に土を吐き、その土は商業ギルドで高く売れるらしい。……集めるのには、色々な精神力が必要になりそうだ。


「面倒なのが来ちゃったわ。弱いんだけど、とにかく数で来るのよ。相手が軽いからパンチは力が逃げちゃうし、私ちょっと苦手」

「そっか、分かった。こんなところで無駄な体力使うのもよくないし、僕が巻物を使うよ」


 残り少ないとはいえ、まだ巻物のストックは若干ある。この先なにがあるかわからないから無駄遣いはできないが、初級魔法くらいなら大した枚数ではないので構わないだろう。


「お待ちください、リュシアン様。ここは私が行きます」

「ゾラ? でも、ゾラって直接攻撃だよね。あ、魔法使えたっけ?」

「魔法ではありませんが、これくらいの距離なら届きますし……いけます」


 ゾラの身体の周りに、薄い膜のようなものが見えた。そして、その揺らぎがやがて動物のような形をとり、地面をウネウネと這いまわるモンスターに襲い掛かった。


「えっ、これって狼? いや、でも……」

「さすがです、リュシアン様。これも視えるんですね」


 この会話の内に、あっという間に戦闘は終わった。半透明の数匹の獣が、ミミズの集団をいとも簡単に蹴散らし、大量の土があちこちにこんもりと盛られた。あ、箒が欲しいね。

 いや、それよりも今のなに? 確かに魔法とは違うようだけど。まさか気とか覇気とかそんなの? 漫画か!

 そして、ロックワームがゲ……じゃなくて、吐いたこの土。スゴイよ、ふわふわでめちゃ良い土って感じ。高値で取引されてるっていうし、本当に良いものなのだろう。今回は素材集めはしないつもりだったけど、この土があったら学園で栽培してる薬草もさぞかし……。


「せっかくだから集めましょうか」


 よっぽど僕が未練たらたらの視線を送っていたのか、カエデがそう言ってロックワームの素材である土を集め始めた。せっかくなのでお言葉に甘えてみんなで土を集めることにした。


「ゾラ、さっきのアレはなに? 従魔、じゃないよね?」

「えっ? 私には、ただの青白い炎のように見えたけれど」


 僕の質問に、カエデが不思議そうな顔をしている。


「カエデ様にも精霊の加護があるので、辛うじて見えたのでしょう。あれは精霊獣です」

「……精霊獣?」

「契約で使役しているという点では、従魔と同じかもしれません。ただ、彼らは命令には従いますが、意思の疎通はありません。人型の精霊以外は、それほどはっきりとした自我がないのです」


 自然の一部、のような存在らしい。契約は、自然との契約。そしてそれは精霊憑きと呼ばれる彼らにしかできないとのことだった。

 契約している以上、双方に利益があるのだろうけれど、精霊憑きとされる彼らは一体何を対価に精霊を使役しているのだろうか? ちょっと気になったが、ゾラはそれ以上は語らなかった。

 その戦い方としては、先ほどのように離れた対象を攻撃する中距離と、気のように纏わせた精霊獣の、その姿を変化させて武器とする近距離攻撃だ。

 見せてもらったけど、ゾラの腕から先が、先ほど視えた獣を形作っているそれと同じもので覆われ、まるで大きな爪型のナックルでも着けているような形になった。ゾラはその形が一番戦いやすいと言っていたが、剣など他の武器の形になることも可能らしい……確かに、ゾラには武器が必要ないね。

 ただし、中距離の方は腕一本くらい足りないってくらいの微妙な距離だし、精霊がゾラの身体を離れた時点で制御が難しくなるので、対人にはあまり使えないらしい。相手を殺しちゃうからって……コワイんだけど。

 それに、これって普通の人は視えないんだっけ。結構……というか、それは相手にとってはさぞかし脅威なことだろう。

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