エルフ族2
ひらりと優雅に手のひらを向けられて、リュシアンは思わず後ろを振り向いた。もちろん誰もいないので、恐る恐る自分を指差すとジーンはにっこり笑った。
「私たちは、便宜上ハイエルフと呼んでますが…、もちろん種族が違うわけではありません」
はるか
「…でも、僕の父親は人間ですよ」
何世代も前にエルフの血が入っているとはいえ、モンフォール王家はれっきとした人間である。母親は確かにエルフの容姿を持っていたというが、それでも彼女の父親も人間だった。
「この先祖返りの条件に、純血は関係ありませんよ。それにお話しを聞く限り、もしかしたら貴方の祖母、かつて失踪したという女性がハイエルフだった可能性もあります」
リュシアンの祖母は、銀髪に碧の瞳の女性だったらしい。
エルフの容姿は一般的に緑の髪に碧の瞳ではあるけれど、色素の中に銀色の因子を持ち、光を浴びると白金色に輝いたという。これは、彼らが森の女神、湖の乙女として信仰している神や精霊と、元は同じ発祥である事を示している。
神話の時代、エルフは恐ろしく長寿で、数も少なかった。新たな生命も、交配によるものではなく神や精霊、妖精のように、森や自然が育み、光の中から生まれたとの伝説がある。
やがて人間と交わり、神の子から転落したエルフは、だんだんと寿命も短くなり、大地や自然から生まれることもなくなった。
「ハイエルフには、銀髪や、明るい金髪も多いんですよ」
貴方のように、とリュシアンの薄い色合いの金髪に視線を送る。
ちなみにエルフから派生して誕生したダークエルフは、昔と変わらず森と共に生きることを選んだ。けれど、彼らもまた、魔族と交わることで神の子足りえなくなったという。それでも魔族の血により、長寿と魔力を得ることになった。そして彼らの銀の髪や、銀の瞳も、やはり昔の名残だというのだ。
そして森を離れたエルフは、より人間と似た生活を送るようになり町や国を作るようになっていった。それでもやはり森への信仰は残っており、古より祀って来た森の女神、湖の乙女と言われる精霊や神を大切にしてきた。かつてのエルフの再来とされるハイエルフは、いわゆる古の血を宿した神の子として、幼いころから神殿に仕えることが義務付けられていたらしい。
「神職に就くってこと?」
「…いえ、どちらかというと信仰される側ですね」
リュシアンは驚いたように、何度も大きく瞳を瞬かせた。
「される、側…ってどういう?」
「…今現在、エルフの国はもう有りませんし、実のところ私はエルフの国で暮らしたことはありませんので、書物でしか読んだことはありませんが」
そう前置きして、ジーンはいささか苦笑を交えて話し始めた。たとえ三百年以上前とはいえ、人道的にはどうなんだろう?という、それはまさに前時代的な行事の数々だった。
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