??階層

 モンスタールームを抜け、一行は通路に出てきた。

 ドロップアイテムや素材の回収を手っ取り早く済ませ、さっさと屍累々の広間を退散してきたのだ。何しろ、いつまたうじゃうじゃと湧いて出るかもしれない。

 するとそんな彼らの前に、さほど進むこともなく下り階段が現れた。


「これって、4階層への階段なのかな?」

「どうなんだろう?あんな広間もなかったはずだし、もともと3階層の階段は階層のコーナーあたりのはずなんだけど……あっ!」


 足を止めたアリスが質問したが、地図を広げたリュシアンはもはや途方に暮れるしかない。けれど、そこでふと気が付いた。


「あっ…ってなんだよ」

「マッピングだよ」

「ほんとだ、リュシアンマッピングできるじゃないの」


 エドガーに答えたリュシアンに、それまで話を聞いていたニーナが両手を叩いた。地図が最初からあるという状況のせいで、こんな当たり前のことをすっかり忘れていた。

 マッピングのスキルを使えば、ここがどこなのか、どういう構図なのかということもわかる。ここのマップぐらいなら、おそらく初級で十分だろう。

 さっそく真っ白な魔法紙をカバンから取り出した。丸めてない平たい紙が、明らかに口の小さなカバンからにょっきり出てくるさまは相変わらず不思議でならない。どこかの猫型ロボットのポケットのようだ。

 まるであぶり出しのように墨色の魔法陣が描かれ、リュシアンが触れると白く空中に展開された。

 むろん初めて見るカミラたちは、口を開けてそのさまをポカンと見ていた。リュシアンの魔法陣の噂はいろいろ言われているが、ほとんど眉唾だろうと思われている節があるのだ。


「あれ…?」


 地図を書くために、ペンなどの道具をカバンから出していたリュシアンは、不思議そうにその手を止めた。


「どうかしたの?リュシアン」

「…見えない」


 ペンを持ったまま固まって、困ったようにみんなを見渡した。


「初級のマッピングで、何も浮かんでこないんだ」

「ええ、でもここって確かそんなにレベル高くないよね?」


 そのはずなんだけど…と、リュシアンは思案気に真っ白の紙を見つめていた。

 マッピングが発動しない理由はいくつかある。一つは、使用者のレベルまたは魔力が足りない。これは、まあレベル関係ないし、魔力は満タンだから問題ない。そして、対象に対して魔法陣自体のレベルが足りない。これもたぶん違う。何しろ踏破済みダンジョンで、ここは確か二十五階層の初心者ダンジョンである。

 じゃあ何か……


「あ、まさか…」

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