2階層
「ちっさいねー、可愛い」
「まだ子供なのかしら。普通より、一回り以上小さいわ」
ダリルを囲んで、その肩にちょこんと乗る新入りの従魔を皆で覗き込んでいた。
通常、小鼠はキックラビより少し小さい20~30㎝ほどだ。それに比べると、この個体は10㎝ほどしかなかった。色も灰色ではなく、真っ白である。
瞳の色が赤いことから、アルビノであることは間違いない。おそらく小さな体格と、色が違うことで仲間につまはじきにされていたのだろう。そして先ほどのパニック状態で、一斉に移動した集団にもみくちゃにされ、潰されてしまい失神していたところをダリルに拾われたのだ。
あの時、モンスターの集団の中に、こちらに矢印を出している存在にペシュは気が付いた。魔力消費の大きい魔獣は従魔になりやすいと以前にも言ったが、こうした孤立した存在もまた率先して召喚に応じたり、従魔契約が容易だったりする。
もっとも、そういう従魔はたいして強くならないことも多く、召喚した主人もテイマーの道を断念するきっかけになったりして、必ずしもいいことばかりではない。
「従魔は可愛いとか関係ねぇだろが…ちっ、しかも強そうじゃねぇし」
ニーナ達が「可愛い」を連発して触ろうとするのを煩そうに避けて、ダリルは肩に乗る子ネズミにちょっと不機嫌そうに悪態をついた。
「あれ、そうなの?いいよ、もしダリルがいらないなら、僕が…」
「ばっ…、ち、違っ!いらねぇなんて言ってねぇだろ!」
リュシアンが手を出そうとすると、ダリルは慌てて自分の懐へと仕舞おうとする。
案の定というか、あまりの慌てぶりにリュシアンは笑いそうになったが、なんとか堪えて「じゃあ、名前つけないとね」と、アドバイスするにとどめた。
今まで何をやっても従魔を得られなかったのだから、本当のところ、その喜びは一入だろう。天邪鬼は面倒くさいね。
「素直じゃないんだから……」
「何か言ったか?」
何でもないよ、と言ってリュシアンは、改めてペシュにサーチをしてもらった。
ともあれ、ジェリーもあれ以来階段を登ってこないので、とにかく先に進まなければならない。先行組が誰も帰ってこない以上、たいして損失もしていない自分たちが引き返すという選択はなかった。
「とりあえず2階層へ降りて、それからだね」
従魔の名付けにしても、安全地帯でゆっくり考えたほうがいいだろう。それに、先行組がいて話が聞けるかもしれない。明日以降の拠点にもしたいし、今は探索よりはまっすぐに今夜のキャンプ地へと急ぐ方がいいだろう。
そう結論を出して、パーティは意を決して2階層へと降りて行った。
あれほど1階層で苦労したのだから、2階層はよほどモンスターで溢れかえっているのかと思いきや……
「なによ、2階層ガラガラじゃない。どうなっているの」
「…でも待って、奥の方で物音がするわ。これって戦闘音じゃない?」
たまに出現してくるジェリーを、エドガーとダリルの魔法で潰しながら、ふとアリスは、先の小部屋から聞こえてくる音の違和感に気が付いた。
なかなか戦闘が終わらないのだ。しかし、ここへは皆、モンスターを倒して素材やドロップを取得しに来ているのだ。余計な手出しは場合によってはトラブルの元になることもある。獲物を取った取らないという奴だ。
なので、リュシアンたちも前のパーティの戦闘が終わるまで待って、先に進むつもりだった。
「苦戦、してる?」
「うーん、どうだろ……連続エンカウントが、即ピンチとも限らないからな」
ちょっと心配そうなリュシアンに、エドガーは腕を組んで首を捻った。ちょっと判断が難しい状態に、全員が額を合わせて悩ましいそうに唸った。
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