従魔の事情

 ニワトリに似た鳥肉でだしを取ったスープが完成すると、揃って昼食となった。

 メインはサンドイッチである。この世界にも、ピタパンのように、薄い皮のようなもので野菜や肉を挟んだ料理はあって、パンに何かを挟んだり乗せたりはよくするらしい。


「リュシアンの料理ってちょっと変わってるわよね、異国風というか」

「うん、でも凄く美味しい」


 ある意味異国だから、正解。

 リュシアンはチョビの分と、自分の分を皿に貰ってニーナに笑って見せる。


「でも、なんかこう、もっとガバッと喰いたいけどな」


 エドガーはサンドイッチを二つまとめて口に入れていた。

 ダリルは、見慣れない食べ物に初めは尻込みしていたが、どうやら口にあったようでバクバクとエドガーと競うようにして食べていた。

 そこそこ喜んでもらえてよかったよ。ここ二日ほどかけて、シチューや、握り飯、パンケーキなど、すぐに食べられるものを非常食として持ってきた。もちろん、乾パンや干飯などの携帯食もだ。けれど、嬉しい誤算で、ダリルが獲物を解体できるようなので、ある程度は自給自足が出来そうである。


 チョビをテーブルに降ろして、サンドイッチを渡すと前足で押さえて食べ始めた。基本的には草食なのだが、結構なんでも食べる。最初はお腹を壊さないかと心配したが、どうやら大丈夫のようだ。

 そして、ペシュにはフルーツ。今日は、マスカットのような大きな粒の葡萄である。一粒が、小さな蜜柑くらいあって、これが甘くて美味しいのだ。ちょこっとだけ皮を剥いて与えると、ちゃんと自分で持って頬張っていた。

 そこでようやく自分の分のサンドイッチを取って、すこし冷めたスープを啜った。


「今日の目標は、やっぱり2階層の空白地帯か?」

「そうだね、できたら夜のキャンプ地は、モンスターが出現しない場所がいいからね」


 エドガーの問いに、リュシアンが頷いた。

 1階層のモンスターはそれほどレア種もいないし、素材も値崩れしてるものが多い。ここを拠点に狩ってもあまり実入りはないので、初日ではあるが一気に中間地点まで行ってしまうつもりだった。

 2階層の空白地帯は3階層への階段付近なので、ここからはちょっと長丁場になるけれど、ここよりもかなり広い場所なので、たとえ先客がいたとしても場所は取れるだろう。

 先週、休暇の二日を下見に使ったパーティは、おそらく一気に3階層まで行ってるだろうから、キャンプ地も分散すると予測していた。


 チョビに追加のサンドイッチを与える頃になると、ペシュがマスカットを食べ終えて果汁に濡れた前肢をペロペロ舐めていた。


「もう一個食べる?」


 リュシアンが聞くとペシュは小さく首を振って、羽根を広げてチチッとひと声鳴いた。ペシュの要求に気が付いて、リュシアンは少し驚いた顔をしたが、すぐに納得したように「ああ」と頷いた。


「…そっか、ずっとサーチさせてたからかな」


 ペシュは周囲探索のスキルを持っている。1階層ではそれほど危険はないが、スキルの経験値を上げるためにずっと発動させていたのだ。その為いわゆるMP切れを起こしたようである。

 リュシアンは食べていたサンドイッチを皿に戻すと「はい」と人差し指をペシュに差し出した。小さな青い瞳をくるくるっと輝かせて、ペシュは短い足で飛び跳ねるようにして一目散に飛びついた。

 立てた指にしがみ付いて、鍵爪がついた前肢で抱え持ってから、かぷっと噛みついた。リュシアンはいつものことなので、なんとなくぼんやりその様子を見ていると、ふと正面に座っているニーナの執拗な視線を感じた。


「なんだか…イケナイものを見てる気分ね」

「えっ?!そ、そう、なんで」


 知らない間に注目されていたらしく、リュシアンはびっくりして顔を上げた。ニーナはおろか、アリスにエドガー、ダリルまで微妙な顔でこちらを見ていた。


「あ、そ…そうか、食事中だもんね、ごめん向こうで…」


 考えてみたら、吸血シーンってグロイ?のかな。ちょっとデリカシーなかったよね、とリュシアンは反省して立ち上がった。


「…隠れてやられるのは、もっと癪に障るわね」

「いや、え…、なんで?癪に障るの?グロイとかじゃなくて」


 ニーナとアリスは、リュシアンのそんな素の反応に、顔を見合わせて苦笑した。

 ――グロイっていうか、ちょっと…ね。

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