準備完了

「君の武器や防具を作るのは、僕達の為だよ」

「…な、なに?」


 ダリルにしてみれば、リュシアンたちに施しを受ける筋合いはないということなのだろう。でもね君、ちゃんと自分でブロイに説明してたでしょ?お抱えの職人に出資するのは当たり前だって。

 

「だってそうでしょ?君の装備が完全じゃないばかりに、魔物を満足に倒せなかったり、怪我をして足手まといにでもなったら、そのしわ寄せはどこに来ると思う?」

「う…、ぐっ、でも」


 あと一押し。


「言っとくけど、それだけの働きはしてもらうし、戦力として、こちらに利があると思ったからこその投資だと思ってくれていいよ」


 要するにイーブンなんだと、リュシアンは言った。

 もちろん半分は、ダリルを納得させるためのリップサービスだが、近接兼魔法使いの存在は、何気に助かるのも確かだ。後方にも前衛ばりのタンク職がいるのは、戦列が乱れたときなどに体制を立て直しやすい。

 リュシアンの口車に乗って、ううむ…とダリルが唸った。

 うん、落ちたかな。

 口八丁手八丁で世の中を渡って来た元サラリーマンに、口で勝てると思わないことだね。

 どうもダリル相手だと、ブラックが出てしまうリュシアンであった。




 ダリルも納得したところで、改めて発注する品を厳選することにした。


「言っとくが、儂は付加能力をつけることは出来んが、いいんだな」

「大丈夫です、多少は僕ができます。それに、鉱石を錬金する際にもある程度の魔力錬金をしますので」


 書き出された武具を、一通り見ていたブロイは感心したように頷いた。


「ほう、大したもんだ。どれ…」


 材料となる金属のインゴットを、フリーバッグから取り出していくつか並べる。金属の錬金は、リュシアンとエドガーでやってきた。


「…お前、たしか錬金術の授業は取ってなかったよな?」

「今年度から取るつもりだよ。この間、見学してきたって言ったでしょ」


 エドガーは、手分けして錬金してきた素材を見比べて、どこか納得いかない様子だった。今年度からってことは、今までは取ってなかったってことなのだ。


「ああ、これは独学だよ。母様や、ロランにコツを教えてもらってたからね」


 もともとリュシアンの素材錬金は大したものだったが、一足先を行っていると思っていた金属錬金さえもエドガーよりも器用にこなしていたので、ちょっと不満そうだったのだ。


「こりゃ、大した腕だな。しかもミスリルだと?子供が持ってくる素材じゃねぇぞ。ふむ、こっちの錬金も悪くない、ちょっと粗はあるが…」


 順番に見ていき、他の素材より小さめのインゴットにふと目を止めた。


「こりゃ驚いた、アダマンタイトか。なんじゃ、お前らいったいこれをどこで…」


 リュシアンと目が合うと、ブロイはふと何かを思い出したように首を振って、再び材料を選別し始めた。なんだかんだ言って、ちゃんとパトリックの話は聞いていたようだ。素材についてアレコレと詮索してくることはなかった。

 結局、アリスの大剣は鋼鉄製の完成品を購入した。ブロイが最近製作したものだが、一目ぼれだったらしい。エドガーは手持ちのミスリル製の杖があるので、あとは腰に挿す細身の剣を選んでもらい、バックラーのみ持ち込みのミスリルを使って新調してもらうことにした。

 ニーナは小型のナイフを一つ、これは普通の鉄製のものだ。もとより靴が武器なのでナイフは予備のようなものだ。ブーツは革を主体に所々を補強する形にしたいというので、まずはジョゼットに追加で注文に行かなくてはならない。リュシアンの装備も縫製の仕事なので、布が出来たらまた顔を出すことになるだろう。

 

 これであとは食料や薬など、細々したものを揃えれば準備は完了する。

 さて、いよいよ待ちに待ったダンジョンも目前だ。

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