幕間

「ちょっと言い過ぎちゃったかしら、ごめんなさいね騒ぎ起こして」

「いいよ、僕も人の事言えないし」


 ダリルとはなにかと衝突、というか一方的に絡まれているリュシアンとしては、もう今更なので気にもしてない。


「だって、お兄様のこと話してるのに、邪魔してくるんだもの」


 彼女の言うお兄様は、もちろんエルマン殿下の事だ。


「それで、リュシアンはお兄様たちの研究を引き継ぐの?」

「ううん、そうじゃないよ」


 リュシアンはあっけなく首を振った。ファビオはすでに実家に戻っているが、引き続き研究は続けたいと言っていた。エルマン王子にしたところで、考えは同じだろう。


「僕は魔法陣でしか魔法を使えないから、エルフの生活魔法を使おうとすると巻物が二枚も三枚も必要なんだ。属性ごとに魔法陣が必要だからね。その枚数を減らせないかなっていう研究」


 一つの属性で何枚も必要な大魔法と違って、複数属性の場合は重複する呪文が必ずあるはずである。もともと生活魔法自体、属性の事がなければ必要な魔力も少なく済む初級魔法なのだ。その魔法陣は、比較的単純なものが多い。


「あ、それなら私も協力できるかも」


 思いついたようにニーナが顔を輝かせた。


「実はね、昇級した呪文の方でやってたテーマ、詠唱の効率化なの」


 例えば、前にリュシアンが五連の魔法陣を使ったことがあるけれど、あそこまでの大規模魔法になるとさすがに唱える呪文も膨大になる。それで呪文詠唱の時間ロスを少しでも軽減しようという研究らしい。

 昔は無詠唱で魔法を使える人がいたともされていて、もしかしたら目指すところはそんな所かもしれない。


「ねえ、共同研究で提出しない?」


 嬉々として提案してくるニーナに、リュシアンとしても否やはない。

 彼女の専門は武術だが、魔法に関しても興味があるようで、その造詣はかなり深い。属性も一つしかなく、魔力も平均値、決して得意分野ではないはずなのに、何に対しても勉強家である。


 そういうわけで、リュシアンの今年度の方針が決まった。

 概ね目指していた通りの題材が通った形になり、指導上級生として呪文Ⅴクラスのニーナが付くという形になった。部門の違う上級生ではあるが、研究の趣旨が同じということで認められたのだ。もちろんニーナは魔法陣Ⅰクラスとしても活動する。

 そして、なぜか強引に入り込んできたダリルが加わった。

 どこにも入れなったので、人数の少ないリュシアンのグループへと放り込まれたというわけだ。彼はこれでも魔法陣Ⅲクラスなので、一応指導上級生の扱いだ。

 魔法陣の授業、研究はこの三人グループで活動し、呪文に出向するときはニーナのグループに入ることになる。これはニーナのグループ研究に参加、というよりはお手伝い兼見学といった感じだ。

 そして、エルフの生活魔法を題材とした研究は、魔法陣クラスのメンバーのみで行うことになる。


 入学からひと月がたち、どの科もだんだん通常授業へと移行していった。そして秋の色づいた葉が散る頃になると、ようやく新入生も学園の一員になっていくのだった。

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