学科選び

 いよいよ授業が始まるわけだが、教養科以外の学科は特別な試験を受けている者以外、仮登録での授業になる。

 まずは希望する科へ行って、そこで数週間の試験期間を過ごすことになる。場合によっては昇級することもあるし、適切な科を進められることがある。というのも、同じ科の中にもいくつか細分化しているものがあるのだ。

 例えば魔法科は攻撃魔、回復魔、召喚魔などだ。もちろんすべて使える者もいれば、召喚魔などは召喚した魔物でなくても従魔を持っていればその括りに入る。そして授業は合同で行われたり、別々での授業もあったりとこれも科によって異なる。


 リュシアンは、希望学科を記入する用紙を前に唸っていた。

 本音を言えば全部やりたいが、現実では時間が足りないからだ。適当なところまで昇級したら、また別の学科を始めることもできるが、やはり最初は確実に伸ばしたいものから始めたい。

 魔法科の攻撃魔に、回復魔、あとは薬草学科、武術科短剣と体術。一つづつ書き加えていって、錬金術科の鉱石や金属でひとしきり悩む。

 また、魔法研究科という項目を見つけて、魔法科とは何が違うのかだろうと、資料を探していると、プリントにふと影が出来た。


「おっ、リュシアン、俺の選択と似てるな。見学、一緒にいこうぜ」


 陰の正体は、手元を覗き込んで来たエドガーだった。

 リュシアンも首を伸ばしてエドガーが手に持っている用紙を見てたが、書かれた希望学科に少し違和感を覚えた。薬草学科とか魔法科回復魔といった補助的学科が一つもないからだ。


「エドガー、魔法属性って何持ってるの?」

「ん? ああ……風と水、光だ」

 

 一瞬、躊躇ったように間があいたが、しぶしぶと言った感じでそう答えた。

 プリントに目を通しつつ、リュシアンは普通に受け流しそうになって「えっ!?」と声がひっくり返った。

 不満そうに唇を尖らせているエドガーは不本意そうだが、光魔法を持っている時点でかなり特異である。確かにモンフォール王国では、王族ならそのくらいは当たり前とされるかもしれないが、学校内では間違いなく特別視されるレベルなのである。


(ガッツリ回復職の属性か……なるほど、気に入らないのはそっちかな)


 選んでるのが魔法科攻撃魔のみというのがそれを示している。風水光とも、強力な攻撃魔法はもちろん存在するが、それらの属性は、他の属性にはない回復系呪文を使うことができるという特性を持ち合わせる。

 そのすべてを持ちながら、あえて回復系教科を外している。

 例えるなら、普通に槍が持ちたかっただけなのに、すごく豪華な盾を渡された感じだろうか。


 とはいえここは学校なのだから、いろんなことに挑戦することは悪いことではない。向き不向きだけで、希望の教科をやってはいけないという道理はないのだ。リュシアンだって、魔法属性なしの体質で魔法使い目指してるのだから。


「じゃあ、今日は取りあえず一緒の科を回ろうか。あとは違う科をそれぞれ回ればいいしね。僕は、剣術は無理そうだし、たぶん行かないけど鉱石は興味あるから付き合うよ」

「お……、おうっ」


 ホームルームが終わると、リュシアンはそういってエドガーを見学に誘った。するとエドガーは、ちょっとだけ驚いたような顔をして、明らかにほっとしたように笑った。


「ん? どうかしたの」

「……いや、お前は言わないんだな、と思って」

「なにを?」

「せっかく授かった才能があるのに、なんでそれを極めないんだって」


 確かに彼の属性なら、かなり上位の複合属性の回復魔が使えるようになるだろう。国としても、王子という立場としても、人が出来ないことが出来るというのは価値のあることなのかもしれない。

 けれど、必ずしもそれが彼自身にとって価値があることとは限らないのだ。

 エドガーを焚きつけていた人物は想像がつく。

 王子としての評価を平凡以上にしたい母親と、国の為にエドガーの能力を使いたい父親だ。


「何が伸びるかなんて、やってみなきゃわかんないでしょ」


 リュシアンは、あとで回復魔を見学に行くから興味があれば一緒に行こう、とだけ軽く誘った。回復に関わる全ての、例えば薬草学など、根こそぎ避けているのはどこか意固地になっているようにも感じたからだ。余計なお世話かとも思ったが、やりたくなったときの逃げ場を作っておくことも忘れてはいけない。

 無理矢理押し付けられれば、本当はちょっと興味があっても絶対やらない、となってしまうこともある。

 授かった能力はもちろん伸ばしても損はないと思うが、それでも今はまだ、やりたいと思ったことを好きなだけ伸ばせばいいと思うのだった。


「さ、とりあえずは魔法科に行ってみよう」

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