あやかししらべ【星祭編】
草詩
第1話「ありふれた」
いつも通りイヤホンをしていれば、その声に気づくことはなかったのだと思う。
思うに、運命のいたずらというやつは、いつだってそういう些細な隙を、狙ったかのようにするりと入り込んでくるのだ。
つまり嫌な奴だ。だがその嫌な奴のおかげで彼女と出会えたのだと考えれば、多少嫌な奴だとしてもそう、感謝しておかないといけねぇ――。
~~~~~~~~~~
「裕哉ァ、ゲーセンでも寄ってかね?」
ホームルームが終わり、担任の磯辺が出ていくなり
「何度も言ってるだろう。今日も部活だし明日も部活だ」
「なんだよ付き合い悪いなぁ。一緒に遊園地に行った仲だろ」
「みんなでな。人聞きの悪い言い方をするな。それに、お前とゲームセンターもカラオケボックスも、片手で数えるくらいしか行ってない。他を当たれ他を」
裕哉は改めてこの友人に向き直り、向こうへ行けと手を振った。引っ越してきたばかりの頃からよく絡んでくるこのクラスメイトは良くも悪くも行動的だ。
何かと自分に声をかけてくれるのはありがたいことでもあったが、春から部活を始め、そちらにかかりきりになってからは全く相手が出来ていなかった。
三嶋自身、他に友人がいないわけではないはずだが、ヘアワックスでリーゼントを固め、整った顔立ちなのに奇抜なファッションを好み、言動がちょっと特殊なせいか遊びに付き合ってくれる友人は少ないようで、未だに裕哉に声をかけてくる。
「はいはい悪いね三嶋。裕哉君は私らにお熱。変人には興味ないってば」
そう言って
「残念な三嶋は壁とでもお話ししながら一人寂しい放課後を過ごし、モテモテ裕哉君は私やヅカチーときゃっきゃうふふな放課後を過ごすのでした。めでたしめでたし。合掌」
「なにもめでたくねぇし。そもそも、もえ。お前は美術部じゃねぇのかよ」
「私? んー展示会も終わったし、とりあえず暇だからね。掛け持ち掛け持ち。というか三嶋もなんか部活入れば? 中学の頃は陸上やってたじゃん」
「お前がモデルをやるなら美術部に入るぜ。もちろん裸体だ」
「うわドン引きなんですけど。あんた乳があれば何でもいいんでしょ……」
「そうだな。その大きさなら、その上にもえの顔が乗ってても問題ないくらいにはいけるぜ」
言うなり、大神田萠の回し蹴りが綺麗に三嶋照之の鳩尾をえぐった。自業自得な攻撃にさらされた三嶋は、カエルを潰したかのような耳障りな悲鳴を上げて近くの机へ縋りつき、そのまま机ごと床へと倒れ伏した。人がまばらとなった放課後の教室に大きめの音が響く。
「行こ、裕哉君。三嶋、机なおしときなよ?」
「いや、なんというか。幼馴染ってのはすごいんだな」
「やめて。こういうのは腐れ縁っていうの」
倒れた三嶋をまったく見ず、大神田は教室を出て行った。近くで仲が良いのか悪いのか、二人のやり取りに圧倒されていた裕哉もこれに続こうとし、少しだけ足を止めて三嶋を振り返る。
「……三嶋、生きてるか?」
その呼びかけに応えるかのように、震えながら上げられた右手は、満足気に親指だけが立てられていた。裕哉は「あ、ダメだこいつ」と思ったが何も言わず立ち去った。
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