週休六日、七時間休憩ありで異世界を救うお仕事

白銀天城

今週の日曜、異世界救います

 都内にある某カレー屋。本格的な店で、外装も落ち着いた綺麗な店だ。

 店内はそこそこ広く、空調も気持ち良い程度に効いている。

 清潔感のある内装に、大きめの薄型液晶テレビと心地よい音楽。


「ふあぁ……ねむ……」


 店内に客もおらず、くつろげるソファー。そりゃあくびも出るってもんさ。

 俺は暇があるとここに来る。目的は二つ。

 ひとつ、ただで試作品が食えるから。


「おまちどうさま。完成だよ」


 店主であり友人であり女神であるヘスティアがやって来た。

 朱色の長い髪と、炎のような赤い目。絵画のような美しい女神として評判だ。


「おう、期待してるぜ」


 ちょっとした縁で知り合い、こいつの世界も救ってやった結果、いつのまにやら現代で店なんぞ始めてやがった。

 絶世の美女であるこいつ目当てに女性客が来たりする。

 本人は女性に興味はないらしいけどな。


「おぉ、美味そうだな!」


「新作キーマカレーだよ」


 カレー屋特有の取っ手が二つ付いたボウルとガーリックナン。

 見ただけで腹が減る。匂いをかげばもっと減る。

 付け合せのサラダは、こいつが自宅で作っている野菜。


「いただきます」


 ナンをちぎってカレーに付け、ひとくち。

 辛さは控えめだが、その分味が口の中に広がっていく。


「こいつは美味い! また腕を上げたな!」


 余計な具は入れない。材料とスパイスの加減も抜群。

 自然と無言になって食い続ける。


「ありがとう。食べながらでいいから聞いて欲しい」


 ヘスティアの声に真面目なものが混ざる。

 同時に人払いの結界で店が隠された。


「女神がピンチだ、勇者様」


 これが目的の二つ目。こいつは異世界に派遣される女神達と俺の橋渡しだ。


「今回の異世界は、かなりまずい状況みたいだよ」


 聞きながらも食事の手は止めない。ガーリックは食欲を増進します。

 ナンは初めて見ると大きさに驚くが、意外と食いきれるものだ。


「魔法と機械文明が混ざったファンタジー世界だよ。だが、あまりにも魔王軍が強いらしい」


「女神の加護を与えた勇者でもダメか」


 大抵の世界には、勇者に加護を与える女神がいるものだ。

 こいつらは女神界という、女神しかいない世界から各世界へと派遣される。


「ああ。しかも女神が一度逃げ出している」


「可能なのか?」


「できる世界だったんだろう。気に入らないけれどね」


 異世界にこっちの常識は無意味だ。法則も違う。

 まあ大抵は力技でいけるので問題なし。


「駄女神か」


 駄女神。最近爆発的に増えた存在で、文字通りの駄目な女神。

 異世界を救う勇者を導く大切な存在なのだが、近頃変な女神が増えた。

 俺が救った世界も、最近の数十個は連続でアホな奴だったさ。


「いいや、異世界の難易度が高すぎた。大量に勇者を呼び、加護を与えたにもかかわらず敗北。あまりにもひどいシステムを作って逃げ出した」


 モニターにその世界のデータが映し出される。

 簡単な歴史。特殊技術。女神の所業。


「……なるほど、こりゃきついな」


 凄惨極まるものであった。気に入らんね。勇者として見過ごせない。


「後任の女神は真面目でね。心が壊れそうなのに、自分の責任だと感じ、SOSを寄越さない。世界とともに壊れるのも時間の問題だろう」


「いいだろう。その異世界、救ってくる」


「ついでに女神も鍛えておくれ。私のときのようにね、先生」


 駄女神とともに旅をし、鍛えてやる。

 そんなことをしているうちに先生と呼ばれるようになっていた。

 女神は俺を勇者か先生のどちらかで呼ぶことが多い。


「へいへい。んじゃ、行ってみますか」


「なんならここに連れてきてもらってもかまわないよ。部屋は余っている。あの世界は、ちょっと彼女には毒だ」


 さて少々やっかいな世界だが、俺は勇者だ。ハッピーエンド以外認めない。

 ちゃっちゃと救ってやりますか。

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