神王陛下⑤
巨人の出処と正体を突き止める為、徐々にその巨体に接近し続けていたが、流れ星のような眩い光を放った何かが巨人を裂き、一瞬にして姿を消してしまう。
それを見て力強く踏み込んだジュンが凄まじい速度で走り出し、それに遅れないように魔力で作ったドラゴンに乗る。
地面から飛んだ小さな1つの人影が巨人の立っていた場所に浮いている人影に向かい、放たれた魔弾を切り裂きながら肉薄する。
持っていた杖で一撃を受けた人の顔が、少しだけ見える距離にまで詰まり、こちらを一瞥してから前に向き直る。
それまで距離を徐々に離す程高速で移動し続けていたジュンが目の前で止まり、地面に手を着けて魔力を放出する。
地面から這い出てきた傀儡を出て来ると同時に打ち砕くが、ぞろぞろと地面に穴を開けて姿を現す。
「チッ、足止めにしてはお粗末だが、人間よりも厄介だな」
「力を貸して下さいアイネさん、私に光の道を示して下さい……Shiningray!」
ジュンを巻き込まずにアイネの魔法を空に放ち、降り注ぐ光の雨の中を縫って前に前に進み続け、ドラゴンの腹に隠れて盾にする。
光がドラゴンを貫き、その翼と体に穴を開けて地面を焼く。
「勝手な行動をするなクライネ!」
消えたドラゴンから投げ出されて宙を舞った私を受け止め、ジュンは降り注ぎ続ける光の雨を避けながら傀儡を四散し続ける。
剣を抜こうとせずに魔力だけで立ち回るジュンは、自分を中心として魔力のドームを作って傀儡を押し退ける。
「邪魔だ! 貴様らに用は無い、封印を解いた主に用がある!」
「魔導師が女性を吹き飛ばしました、そのまま沈黙です! 助けましょう」
「あいつなら大丈夫だ、そうダメージも入っていない。それよりもあの魔導師だ、あいつを押し切るのは人間には無理だ。私が魔導師をやる、クライネは傀儡を消し尽くしてからこっちに来い」
「分かりました、Shiningray」
ジュンの背に自分の背中を当ててから互いにそれぞれの敵に向かい、姿が見えなくなる不安を振り払い、私だけかも知れないが、ジュンを信頼して背中を任せる。
想像を繰り返してアイネが自由に空を飛び回る姿を思い浮かべ、音楽と共にその翼を翻す姿をイメージする。
光の雨が降り注ぐ中、現れては雨に撃ち抜かれて消えて行き、その短い間にも傀儡を蹴散らす姿はとても儚い景色に見える。
だが、徐々に押され始めた私の体には疲労が蓄積し、岩の裏側に一旦身を隠す。
「……パラシュ、アリス!」
遠くから聞こえる声を何とか見つけようとするが、巻き起こった砂埃で視界が遮られ、自分の足下すら見えなくなっていた。
「アリスさんが居るんですか! 叫んでいるのは誰ですか!」
それ以降誰の声も聞こえなくなり、最後の力を振り絞って、ジュンがやっていた魔法の壁を作って身を守る。
「ぜぇぇぇ!」
背後で気迫と共に鉄と鉄がぶつかり合う音がすると、砂埃を払う程の余波が周囲に広がり、視界が一気に開ける。
空にはジュンと魔導師が得物を叩き付け合っており、力で劣る魔導師が地面に弾き飛ばされるが、直前で静かに着地する。
それを追って地面に向けて急降下を始めたが、入れ替わる様に魔導師が空に飛び上がり、平原に大きな穴を開けさせる。
少し離れた所に居たアイネの方に向かって杖を振るい、その姿をパッと消してしまう。
「貴様は神か!」
「僕はユエルだよ〜」
進む方向を変えたジュンが今度は私の方向に突きを繰り出し、虚空に阻まれて勢いを殺される。
顔から徐々に全身を
「凄いや、魔力透視が出来るんだ。七星の騎士も伊達じゃないって事だね、剣も速いや」
「ユエル! 本当にお前なのか、加勢する」
「トールくんか、久し振りだね。でもごめんね」
「待て、今は何処に居るんだ! 今まで何処に居た、父はどうなった!」
割って入って来たアイネの背後に回り込むと、ジュンは構わずに魔力で加速しながら剣に乗せた渾身の魔力で突きを放つ。
その一撃を受け切れなかったアイネが吹き飛ばされ、それを好機と見たジュンが叫ぶ。
「やれクライネ! あの魔導師を吹き飛ばせ!」
「分かり……ま、アイネさん?」
ドラゴンを作って一気に魔導師に接近し、溜めていた魔力を思い切り撃った後に、アイネが居る事にやっと気付く。
「貰った、一瞬戸惑ったアトラルの負けだね。ありがとトールくん、君のお陰……」
「クライネに手を出すなイカレ魔導師」
一瞬にして私の目の前に現れた魔導師の杖から放たれた神力を吸収し、アイネが雷に変えて零距離から返す。
眩い閃光に視界が遮られ、何も見えなくなった後に目の前で翼を広げていた黒い影が、私の手から離れた膨大な量の魔力に吹き飛ばされる。
アイネに手を伸ばして掴もうとしたが、目の前で走った2本の短剣が魔力を切り裂き、無防備なアイネを守っていた。
鋭い眼光を放つ半獣の女性が目の前に立っていて、ぼろぼろになった体で私を切り裂こうと短剣を翻す。
「アイネさん無事ですか!」
それに構わず手を伸ばした私をジュンが回収し、半獣の女性が繰り出した一撃を食らわずに離脱する。
それが外れると半獣はアイネを抱えて背後に飛び退き、吹き飛ばした魔導師が正面、左にはアイネと半獣の女性と三角形で睨み合う。
「痛たたた、酷いなトール。師に刃を向けるなんて、魔法壁が剥がれちゃうじゃないか〜。それに、魔法以外何も戦う術がないのに、魔法殺しの狼娘も居るし」
「チッ、そう言いながらお前の魔法は殺し切れずに食らったがな。どんな特殊魔法か知らんが、お前を殺すには骨が折れそうだ」
にこにこと微笑みながら浮かぶ魔導師と半獣の女性が言葉を交わし合い、ジュンが私を下ろして前に出る。
「四聖帝と守護者が揃い、かつての強国の将も居る。神王陛下の障害がこれ程までに揃ってくれた事、これも陛下の大いなる加護だろう」
左手を背中に隠して合図を出したジュンに頷き、いつでも飛べる準備をしてアイネの魔法の準備をしながら、より大きな魔力を溜めていつでも放てるようにしておく。
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