切られた緊張の糸

新兵の募集が締め切られてから数日後、試験が行われる中庭で、今まさに最終試験が行われていた。

ここに残った約三千の新兵は第一次試験と第二次試験、そして実戦型演習を乗り越えて残った者たち。言わば訓練兵の中でも精鋭。


二人一ペアとなって将軍と手合わせをする最終試験では、勝敗は関係無く全員が合格となるが、後の階級に大きく関わってくる重要なものになる。

その試験風景を見ていると、ヨルムとジャンヌに似た兵士が居た。と言うか完璧にその二人だった。


槍を構えたガルドナルと向かい合った二人は、慎重に互いの間合いに気を配る。

猛者との勝負は自分のフィールドで展開させながら、いかに相手の嫌な所を突き、自分の得意を押し付けるかで決まる。


それを分かっている三人はみだりに踏み込まず、だが、恐れて引く事も無い。

そしてその瞬間はいつでも唐突に起こるもので、時に自然の悪戯で状況が動く事もある。


この勝負の決着は、たった一瞬変わった風向きで決した。

深く踏み込んだジャンヌを槍ごと弾き飛ばしたガルドナルだったが、風に乗せた一撃は一瞬の凪で勢いが落ち、その隙を突いたヨルムの回転しながら放った重い一撃が背中に入る。


この二人より前のペアは武器が掠めることすら無かった為、真剣なら完璧に深手の一撃を入れた二人に向けて歓声が上がる。


「見事だ! ペアを信頼して囮となった貴殿も、自然すら味方につける貴殿も。天晴れだ!」


「あの人たちを是非側近にしたいです、お願いしますエルさん」


二人を見て感嘆していたエルは、言葉の処理に時間が掛かったのか、ワンテンポ遅れて聞き返してくる。


「突然側近で御座いますか。丁度席は空いていましたので良いとは思いますが」


「なら決定ですね、正式に騎士になったら私の部屋までお願いします」


もう一度中庭を見渡してアイネを探すが、どうやらこの中に姿は無いらしい。

アリスとアイネはこの場に居なくて、ヨルムとジャンヌだけと言う事に疑問は残るが、エルと剣を交えたアイネが来れないのなら、アリスもそっちに付いて行ったと考えられる。


「陛下! デルタイル帝国の使者が参りました、陛下に今すぐ謁見させろと。応じなければ、この国は我が帝国のものになるとの事です」


息を切らしながら走って来た騎士は、私の前で膝を地に着いて荒い息のままあった事を報告する。

エルに視線を向けた瞬間に、また奥から騎士が走って来て目の前で膝を着く。


「パラザリア殿が出陣し、ドラゴンの商隊を攻撃したとの報せが入りました」


「この国は、最早戦争からは逃れられませんか……まずは使者を通して下さい、パラザリア殿からは帰って来てから話を聞きます。エルさんは戦争の準備を将軍らと共に始めて下さい、それと誰かにパラザリア殿を連れ戻させて下さい」


「御意」


走っていったエルと入れ替わりで、無理矢理入って来た使者が目の前に現れる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る