【エッセイ集】ポニーライド

千求 麻也

紙エプロンいらない宣言 feat. トミー

 仕事の昼休み、最近新しく出来たラーメン屋に行ってみた。


 券売機が外にあるタイプで店内の様子はほとんど見えず、入りづらい雰囲気。

 中から話し声が聞こえてくるので客はいるのだろう。

 オススメのラーメンって書いてある食券を買って店内へ。


 内装はオシャレでラーメン屋ぽくない感じ。

 厨房の周りを20名ほど座れるカウンターが囲んでいる。

 客は誰もいなかった。


 店員は二人だけ。

 オラオラ系の若者男性とそれより年上で先輩と思われる綺麗系の女性。

 話し声は若者男性店員のものだったようだ。

 とりあえず、真ん中あたりのカウンターに座り、食券を渡してラーメンが来るのを待つ。


 その間、若者男性店員はずっと女性店員に喋りかけていた。

 もうひたすら喋っている。

 それを女性店員は微笑ましく、つつましやかに相槌を打ちながら聞いている。


 若者男性店員は見た目も喋り方も、サンドウィッチマンのバイト面接のコントに出てくる若者に似ていて、「ナントカなんすっよ~」「ナントカすっか~」「ヤバくないっすか~」みたいな感じで喋っていた。

 若者男性店員(以下、トミー)だけ黒いキャップを被っていたが、こうなるともう店の物なのか私物なのか分からないな。


 ラーメンを待っている間から食べて店を出るまでトミーはずっと喋っていた。

 聞こえてきた話しで覚えているのは……


「オレ今日、ラーメンまだ一回もマトモに作ってないっすよ~。ヤバくないっすか?」


「いや~この時間マジ楽っすね。全然人こねっすもんね~」


「いつも夜入ってて今日初めてこの時間入ったんすけどマジ感謝っすわ~」


「大丈夫っすかマジでこれ?」


 こんな感じで、あとはなんかトミーの好きなものや最近どこに行ったとか。

 けどもうほんと、ずうーっと喋ってるじゃんトミー。

 いや、すっごい喋るよね~……と思いながら、ラーメンを食べた。


 そんなトミーも、たまに喋りが止まる時はあった。


 お、静かになった……てか、BGM掛かってたのね。

 トミーの喋り声にかき消されていたようだ。

 BGMなんて全然聞こえてなかった……まあ音量が小さいのもあるけど。


 R&Bっぽい女性ボーカルの歌がうっすらと流れているのが聞こえてくる。

 男性ボーカルもフィーチャーされてる……?


 って、トミーかい! 喋らなくなったと思ったら歌うんかい!

 ……と心の中で突っ込んだ。


 喋りのインターバルが3、4回くらいあった。インターバル中はトミーがフィーチャリングされたBGMを聴くことになる。歌よりMCの時間が長いフォーク歌手を思い出した。


 僕がいる間には、他に一人だけ客が来た。スーツ姿の男性。隣の隣の席に座って僕と同じラーメンを頼んだ。

 少しして女性店員が「良かったら紙エプロンお使い下さい」

 みたいなことを言ってスーツ男性のところへ紙エプロンを置いた。


 紙エプロンあったのね。僕はもらってないけどね。まあ作業服だからね。まあ多少はね……跳ねたってね……でも作業服も清潔に保っとかなきゃいけないんで、作業服でも麺類とか跳ねそうなのはいつも気をつけて食べてるし。だから紙エプロンなんて付けなくたって良いんだけどね……カレーうどん食べに行って紙エプロン出してもらっても作業服の時は付けなかったしね。


 で、肝心のラーメンの味は深みが無いというかコクがなく、なんか薄っぺらい感じ……。


 たぶんもう行かない。

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