ACT80 恥も外聞も捨て去って

 MIKAが所属するラビットガールズの全国ツアーが終わるのはひと月後。それまではMCを私と真希がMIKAに代わって務める。

 とは言っても、晩春さんがほとんどの仕事をやってしまうので、実質アシスタントになってしまうのだが。


 初MCは見事に失敗に終わったので、2回目のMCではアシスタント――晩春さんのサポートにてっした。

 真希も同じくサポートに徹した様で、大きなミスもなくつつがなく収録は終えた。

 その代りに私と真希は全くと言っていいほど目立たなかった。

 その回の放映直後、ネット記事の見出しには「トラブルメーカー反省か?」と言う見出しとともに、私と真希が近頃世間をにぎわせている事、それらの問題に関して注意を受け、謹慎きんしんも検討されたため問題を起こさない様に収録現場でも大人しくしていた、などと好き勝手に書かれていた。


 憶測もここまで来ると、そのたくましい想像力を称賛したくなってしまう。

 どこから謹慎なんて言う単語が出てきたのか疑問だ。

 ただ単にミスしない事の重きを置いただけなのだが、メディアとは恐ろしいものだ。

 親の仇と言わんばかりに悪意を持って報じる。

 何故敵視される――悪意を向けられるのかは分からないが、真希に言わせると嫉妬しているから取り合う必要はないとの事だが、私は真希ほどメンタルが強くない。


 番組史上最低の視聴率を叩き出し、その翌週には何の印象――インパクトも残せなかった挙句にバッシング。

 メンタルにかなり深刻なダメージを受けた。

 MIKAが戻ってくるまであと3~4回は収録がある。

 自信喪失。

 どんなに自分を奮い立たせようとしても……無理だ。

 芸能界怖い。テレビ怖い。バラエティー怖い。MC怖い。週刊誌怖い。ネット怖い……etc.


 もう1人では何もできない。

 出来る気がしない。

 芸歴10年を超える私も、芸能界の中では若手に分類される。

 バラエティーと言う畑違いの場所では素人も同然。むしろ女優としてのプライドだったりが邪魔をする分、しがらみは素人よりも多いかもしれない。

 それに加えて変なプレッシャーがある分、素人以下のミスをする。


 この前高野さんが、「結衣にはまだこの仕事早かったかな……」と呟いているのを聞いてしまった。

 想像以上に落ち込んだ。

 大袈裟ではなく本当に、人生で一番落ち込んだかもしれない。


 でも私もバラエティーの仕事はまだ早かったと思う。

 出来ることなら逃げ出したい。

 でも収録をバックれるなんて言語道断だ。

 そんなことしたらテレビ局から出禁を食らってしまう。

 もしそんなことになったら女優業の方にも影響が出てくる。

 テレビドラマはもちろん出られない。舞台や映画にだって出にくくなる。一度仕事を投げ出した人間に再びチャンスを恵んでくれるほどやさしい世界(業界)ではないのだ。


 腹をくくってバラエティーの舞台で結果を残さなくては、どちらにしても私の女優生命が終わる。

 そのためには恥も外聞も捨て去る。


 私は手始めに、スマホに入った一度も使われたことの無い電話番号に電話を掛けた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る