ACT75 テレビ観戦の後、嫉妬
ネガティブキャンペーンの効果は絶大で、結衣のスケジュールには空白が目立つようになっていた。
それでも、人気者であることに変わりはないんだけどね。
せっかくの休みなんだから、好きなことして過ごさないと損だよね。
私の趣味なんてアニメ鑑賞くらいしかないんだけど。
あと、漫画を読むのも好き。あくまでアニメ派なんだけどね。
……あっ!
綾人のこと完全に忘れてた……どうしよう。
最近いろいろありすぎて自分の事で手一杯だった。
気分転換にデートでもしよう。うん、そうしよう。
さっそく連絡を……――
結衣:綾人、今日ヒマ? よかったらどこか遊びいかない?
………………返信来ないんですけど!?
で、でも大丈夫。
既読スルーじゃないから。既読スルーだったら泣くけど。
そういえば最近スマホ見てなかったから、凄い数の連絡が来ている。
重要なものは……あ……。
先週届いていた綾人からのLIENには、競技会に参加するという旨の報告があった。
競技会って今日じゃん……。
仕方ない。デートは諦めてアニメ鑑賞会を……。
そう思ってスマホをテーブルに置くと同時に震える。
あっ、綾人からだ!!
返信来たぁああー!!
自然とテンションが上がる。
綾人:テレビで競技会中継されるから、よかったら観てくれ。結衣のために1位取るよ。
綾人:ヤバイ。なんか恥ずかしい(*/□\*)
格好つけて自分で恥ずかしがってる綾人かわいい。
試合前だから、からかうのはダメだよね。
結衣:頑張って! テレビの前で応援してるね❤
綾人:ありがとう。
他愛ないやり取りに幸せを感じる。
最近、ゴタゴタのせいで疲れきっていたけど、その疲れが嘘みたいに吹き飛んだ。
私はバッシングになんか負けない。
デートは出来なかったけど、いい気分転換にはなったわね。
そして私はテレビを点けた。
…………
……
…
テレビの前で拳を握って声援を送る。
きっとこの声は届いているはず。その証拠に綾人は決勝戦に進出した。
愛のパワーは偉大なのである。
彼の実力からすれば当然の結果なのだが、愛とは人を盲目にする。
リプレイで繰り返し流される綾人のレースに、その都度歓声をあげた。
テレビでは、陸上中継でお馴染みのスポーツキャスターが綾人の走りの凄さを熱く語っている。
よくわかってるじゃない!
私はスポーツキャスターの解説を絶賛する。
「しかし、赤崎選手はブランクがありますからね。体力的な部分に不安を抱えていますから、決勝戦で完璧な走りが出来るのか心配です。
それでも優勝候補の一人ではあるんですが……少し厳しいかもしれません。
私は古城選手が優勝の最有力だと思いますけどね。……――」
前言撤回である。
このキャスターはなにも分かっていない。
優勝するのは綾人以外には考えられないのだから。
そんなことを考えている間にも、決勝レースが始まろうとしていた。
解説していたキャスターも、決勝進出者のプロフィールをコース順に読み上げる。
古城なにがしのプロフィールが終われば、次は綾人の番である。
トラックに入ってきた綾人にカメラが寄る。
あぁ……カッコイイ❤
普段は見せない真剣な眼差しに、胸がキュッと締め付けられる。
「それではトラック横にいるMIKAさんにお話を伺いたいと思います」
ん? 今なんて言った?
聞き覚えのある名前をキャスターが口にした。
「ハーイ、MIKAでーす。よろしくお願いします」
テレビにはMIKAの顔がアップで映し出される。
「いやー、私もともと赤崎選手の大ファンなんですよ。だから今日、このお仕事に来れて本当に良かったです! 肩入れしちゃいけないのかもですけど……(少し恥じらいながら)。私、赤崎選手に優勝インタビューしたいので頑張って優勝してもらいたいです!!」
「いやいや、ホントですよ。MIKAさん肩入れしすぎ」
和やかな会話がしばらく続いた。
場内アナウンスが鳴り、選手の呼び込みが始まるとテレビ越しでも会場の緊張感が伝わってきた。
内側のコースから順に選手紹介があり、その紹介アナウンスに選手も手を振って応える。
赤崎綾人の名前がコールされると、一際大きな歓声が上がった。
…………
……
…
決勝レースは、後半30メートルで失速した綾人を古城選手が追い上げる展開になり、写真判定のすえ綾人が見事優勝に輝いた。
レースを観ながら私は大絶叫。
なんだか喉が痛い。
明日は収録があるのに……ま、いいか。
いいわけないのだが、愛の前ではそんな些細なことどうでもよくなってしまうのだ。
しかし、
……なっ!? なによコレ!!??
テレビにはMIKAにマイクを向けられている綾人が映っている。
無駄に距離が近い。
完全に恋人同士の距離感だ。
MIKAに悪気はないのかもしれないが、人の彼氏にあんまりベタベタくっつかないでほしい。そう思うのは彼女として当然の心情だろう。
なにより許せないのは、綾人が鼻の下を伸ばしていることだ。
ちょっと露出が多いアイドルに、目を奪われる彼氏を見て心がざわついた。
完全に嫉妬してる。
女としても彼女に負けた気がして、私は静かにテレビを消した。
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