ACT61 Why Japanese people

 一発OKが続く。

 ダメ出しの鬼である王子晴信も舌を巻く演技を見せる私たち姉妹。

 私の好敵手ライバルも食い入るように私たちの演技を目に焼き付けている。

 それは当然の反応と言える。

 初めて(演技を)合わせているはずの二人が、これ以上ない演技を見せ、カットがかかった後にはあそこはもっとこうした方がいいだとか、この方がいいだとか言い合っているのだ。

 満足していない。その姿勢が見て取れるだけでも彼女からしてみれば恐怖だろう。

 それだけで私は十分に満足なのだが、姉は違うらしい。

 見事なまでのドヤ顔である。

 見せつけるように常に好敵手の視界に入ろうとしている。

 折角休憩に入ったんだから休めばいいのに。


 家を一歩出た瞬間から私たちは赤の他人になる。つまり、現在スタジオにいる私たちは姉妹ではなく、赤の他人。姉の行動に口出しすることは出来ない。

 まあ、わざわざ外で話す必要が無いくらいに家では口論を繰り返してきた。

 演技についても二人で散々語り明かした。

 その結果の一発OKである。


 撮影は姉と好敵手、二人のシーンになっていた。

 まだどこか自分の世界に入り込んでいる姉。

 調子乗ってたら王子晴信の逆鱗に触れるわよ。

 急いで頭を切り替えるようにデスチャーを飛ばす。

 ん? と間の抜けた顔で私を見る姉。

 こちらが伝えたい意図がくみ取れないらしく、険しい顔になる。

 何故わからない。日本人!

 ――Why Japanese people!? くみ取れよ!! 察しろよ!!


 でも、ちょっと抜けている、そんなお姉ちゃんもまた可愛いのだけれども。

 直後に本番の掛け声。ああ、お姉ちゃん終わった……。

 ?? 何故か好敵手の動きが止まった。その後何度も彼女はフリーズを繰り返した。



 ♢ ♢ ♢



 前回の撮影から数日後。

 彼女は学校に登校してきた。

 ぐちぐちうるさいからついキレてしまった。

 短気なところは姉とよく似ている。キレ方が少し違うけどね。

 姉は感情的に、私はあくまでも、おしとやかにキレる。


 ――Make the most of yourself, for that is all there is of you.


 この一言を残して(彼女に贈って)、

 私は学校を去る決意をした。


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