第50話「不浄の第三講堂」1

 休日に惰眠を貪る午前11時何分か、どうせ訪問販売か何かだろうと呼び鈴を無視し二度寝に入ろうとすれば、次は着信音に叩き起こされる。

なんだチビ社長かと応答に指を滑らすと、それはそれは酷い話だった。


チビ「こらこらさすっち君! 学生陣も連れて遊びに来てあげたぞ! 早く開けたまえよ!」


「いや、いやです」


休日だぞ。

冗談じゃない。


チビ「なんだい、この前から宅飲みをやる話は散々していただろうに!

この期に及んでいやというのは無いだろう? 

いやというのは!

そもそもだね、自宅を最初に提案して来たのは君じゃ無かったかな?」


その場で適当に調子の良い言葉を吐いて忘れる俺自身を恨む。


「忘れてまして、準備できて無いです」


チビ「忘れていたみたいだぞ諸君」


ブーブーと喧しい声が環境音に混じる。

甘い物の食い過ぎでボケているとかいう暴言が殊更耳に残る。


チビ「あまりにもダメダメだなぁ!

社会人失格じゃないか!

ダメだなぁ!

せっかく買いたてホヤホヤのピザが冷めちゃうじゃないか!

…お、ディスクシリンダー錠じゃないか。

最近本で読んだものでね、諸君! 見ていたまえ!」


電話越しと玄関方向から、ガチャガチャと物騒な音が響いてくる。


「止めて下さいよ! 開けますから!」


壊されても困るわけで、そもそも部下の自宅に押し掛けて来て玄関扉にピッキングを試みる方が社会人失格だと思うが… ガチャガチャ音が酷くなって来た。

広さと職場近く優先で此処にしたが、次はエントランスオートロックがしっかりしているマンションに引っ越そう。


脳内で文句と自省を垂れながら鍵を開けるや否や、大荷物を抱えてぐちゃぐちゃと雪崩れ込んできた。


チビ「遅いな! そして汚い格好だなぁ!

さすっち君、休日は何時もこうなのかね?」


川部「オッサンのよれよれTシャツ短パンまじ(笑)

毎日それで寝てんですかぁ?」


武部「いや、こんなもんだろ普通。

やたらヒラついたドレスみたいなの着るのはお前ん家くらいなの」


川部「ウッザ、乙女の嗜みですぅ。 チビジャリには分かりませぇん」


武部「馬子にも衣装ってか?」


澤部「すみません玄関先で五月蝿くて、すぐ入ります!」


堀部「…失礼する」


「あぁ〜 もう早く入って下さいよ。

近所迷惑ですよ」


チビ「あとあれだな、風呂場と洗濯機を借りよう。

流石にあちこち寄り道して来たら酷くてな!

見込み通りといえば見込み通り。

私は冴えている!

諸君! 忠告通り着替えは持って来ているな!?

お風呂じゃんけんだ!」


うるせぇし、寝起きの電話でキャンキャン鳴かれて頭は痛ぇし、早速風呂場が酷い事になりそうだし気分最悪だ。


「それで、とりあえずなんすかこのピザの量」


結局、冷めてるし…

おそらくLサイズが10箱ちょい。

メンバー全員でも食い切れるとは思えない。


チビ「来る途中に持ち帰り半額キャンペーンの幟が目に付いてな!

こういう時でも無いと大して食べないし差し入れなのだよ! にゅへへ♪」


にゅへへ、じゃねぇよチーズ臭が酷いんだよ。

無駄遣いばっかしやがって。


川部「やっぱあれか、オッサンにこの量はキツイか、

しゃ〜ねぇ~な〜 歳だもんな〜」


「いやいや、まだ二十代」


チビ「ピザは余っても冷凍保存できるぞ!

安心安心」


「それにしたって限度が…」


"ザラザラザラ"


奮発したマホガニーのアンティークテーブルに容赦なく駄菓子の雨が降り注ぐ。


川部「ゴチャゴチャ言ってないで楽しもうぜ?」


「ぁああああ」


澤部「すみません勝手に…」


勝手にってか、五月蝿いっていうか、遠慮が無いというか、品が無いというか…


武部「お! 最新機種じゃないですか! 

抽選当たったんですね! ソフトは何買いました?」


「あ、あぁ、まぁこの前の案件でだいぶ貰ったからローンチは一通り揃えたよ」


武部「良いなぁ! ちょっと触って良いですか?」


「良いよ良いよ、どんどん遊んでよせっかくだし」


武部「ありがとうございます! 

やっぱり独立できると夢があるなぁ!」


なんかそうなんだよ、学生は学生なりの純朴さというものが…


川部「うし! カクテルパーティ!

場所はまぁ有るしジャグ買って来て正解だわ」


チビ「あれだあれ! ラムネとかグミとか入れるやつやろう!」


"ドガッ"

そして俺のアンティークマホガニーに追加攻撃が入る。


「あああああ」

凹んだ。

あれは絶対凹んだ。


堀部「…すまん」


澤部「すみません」


早々にソファに陣取っていちゃついてる君等もなんだかね、総本革の特注なんだから静かにいちゃつけば良いってわけでも無いと思うわけで…

なんだか俺自身がケチ臭い人間になった様で嫌になってきた。


「もういいや…

武部君、せっかくだし対戦しようか」


無軌道ぶりは何時もの事だ。

気にしてないで今の状況なりに休日を楽しむべきなのだろうか。


武部「せっかくですしね!」


チビ「おやおや折角の宅飲みでどうしたんだい、黙り込んでガチャガチャやり始めて。

いつもとやっている事が変わら無いじゃないか。

コレでも飲んで元気出し給えよ!」


「これはこれで楽しいんです。

…あと頼みますから座るならちゃんと穿いて下さいね。

ほんと自宅に関してはなんか無理なんで

…なんすかコレ」


赤色の液体に毒々しいまでにカラフルな錠剤が浮かぶ謎のドリンクを渡された。

ほんのり臭い。


チビ「かわっち君が即興で作ったブラッディメアリーの○ッピーラムネ入り胡椒タバスコマシマシだよ」


武部「あ、俺は遠慮しときます。

一応、現役高校生なんで」


のっけからなんてゲテモノを作るんだ。

馬鹿じゃないのか。


「まっず」


クソ不味いアルコールのせいでやはり色々と気に入らない休日になりそうな予感がする。



堀部「…時間だな」


ゲームの合間、

奇跡的に妙味と言えなくもない川部特製う○○棒入りカミカゼを唸りながら啜っていたらふと、寡黙なリーダーが帰り支度を始める。

そうか、乗り切ったか。

壁とか破壊されなくて心底良かった。

アンティークテーブルは犠牲になったが…


澤部「もう? 残念〜」


残念も何も、始終ソファでイッチャイチャしていただけだろう。

あれ以上いかれても困る。

家はラブホではない。


川部「ちぇぇえッ! もうかよ!」


さっきからコントローラーを投げるのは止めろ。


チビ「ふんふん、学生諸君は門限も有るようだしなさっさと帰り給えよ! 敵は取ってあげよう!」


武部「いや〜 社長じゃ無理じゃないですか?」


チビ「分からんかなぁ、ちゃんと勝ち筋が見えて来ているのだよ!」


「あぁ、ほら、それなら早く帰りましょう。

あんまり遅くなると親御さんにまた怒られそうですし」


チビ「あぁそうだぞ! ここからは大人の時間だからな! お子様達は早く帰るんだ!」


「学生陣をちゃんと見送るのも連れて来た社長の役目でしょう。

一緒に帰って下さいよ」


チビ「え〜 ヤダ。

なんなら送った上で戻って来るぞ」


「え〜、ならまともなの飲み直すんでつまみでも買って来て下さいよ」


チビ「その程度いくらでも買って来てやろう!」


川部「おいオッサン、明後日はこれ持って来いよ!

リベンジすっから」


「はいはい、分かりました」


武部「あ〜 ピザってやっぱ冷めるとマズいわ」


澤部「六箱… 結構余ったけど置いて行って大丈夫かな?」


「温め直せば良いですし、冷凍庫も余裕有るから大丈夫ですよ。

ほらほら、気を付けて帰って下さいよ」


川部「う〜っしゃ帰るか〜、あ~疲れた

靴履くのもダリ〜」


武部「疲れたって、遊んだだけだろ?」


川部「ば〜か、本気で遊ぶと疲れんだよ」


ゾロゾロと出ていくなか、ふと澤部が履きかけた靴を脱いで動きを止める。

ゴキブリでも出たのだろうか?

勘弁願いたいが。


澤部「あ、そうだ佐藤さん。

シューズボックスの上に飾ってあるそれ…」


「あぁ、これですか? 真守先生に貰ったんですよ。

御利益でもあるかなと」


何時ぞや貰った御札だ。

売り言葉に買い言葉でポケットに入れて来た様なもんだから、使い方も効果もさっぱり分からない。

結局、捨てたら捨てたで祟られそうなので飾っている。


澤部「持ち歩いておいた方が便利ですよ?

無くしものがあったら目を瞑って、無くしたものを思い浮かべながら破くんです。

何年か失踪していた人だってその場ですぐに見つかったって学校では有名なんです」


「本当ですか?

ちょっと信じられませんけど」


澤部「私も何回かお世話になっていますし、今のところ百発百中です。

おすすめですよ♪」


無くしものか…

相変わらず遠い日の白翼が頭を過る。

夢に消したあの日々も見つかったりするのだろうか…


「ありがとうございます。

確かに飾っておくのでは勿体なさそうですね」


澤部「はい、是非」


川部「澤部〜 遅いぞ~ リーダー寂しがってんぞ〜」


澤部「や〜んリーダー可愛い♪ 

それじゃ佐藤さん、また来週です♪」


瞬く間に靴を履くと右手を小気味よく振り、ピョンピョン跳ねていく。

併せて躍る一筋入ったピンクのメッシュが、今の彼女の心情をよく表している気がする。


「どうぞまた来週」


馬鹿に楽しそうだった。

帰りだというのに、これからまた遊び始めるのだと言わんばかりに…

彼女達からすればこういう機会もちょっとした青春のやり直しというやつになるのだろうか。

チビ社長なりに福利厚生というやつを考えているのかもしれない。

楽しめたのなら良かったのだろうが、一つ言ってやりたい。


「リア充、もう少し自重しろ…」



アイカ「つまりだなぁ! 無学な君にも手段はあるっ!

伝手と諸々の知識は教えるから君自らで対抗手段を作り出すのだっ!」


勝手にベロベロになりつつ、俺の様な業界飛び入り組でも最近は技術的進歩により霊的事象に対応できることをクドクド繰り返している。


「とは言ってもですね。

現状のポジションでも全然いいですけどね。

俺としては」


アイカ「だめだなぁ! やる気! やる気を持ち給えよさすっち君! ハングリー精神が足らん! ハングリー精神がっ!」


「はぁ」


アイカ「君はっ! 君の役割は現状! あまりにも受動的に過ぎるっ! そんなんじゃ怖いだろうにっ!

不安だろうにっ!

現場でこぼす言葉からぁ! 最近よく分かるぞぉ!

それを思うとなぁ! 私はっ! 私はっ!

申し訳なくてな゛ぁ゛!」


あぁ、そうだよ最近は酒量が一定量超えると勝手に演説ぶって泣き始めるんだった。

それをも超えるとゲロ吐き装置になるのだ。


「あぁ〜 良いんですよ良いんです別に。

そりゃ不安になることもありますし、怖くもなりますけど…

なんやかんや学生さん方やお祖父さんやサム、何よりアイカさんがちゃんとフォローしてくれるって安心感は有りますし」


アイカ「ぐぞっッ! い゛い゛ごどい゛う゛なぁ゛!

ざずっ゛ぢ君!」


もう3時だ。

そろそろ眠い。


「あ〜 そろそろ帰りません?

タクシーとか呼びます?」


アイカ「いやだっ゛! 帰ら゛な゛いっ゛!」


「なんでですか? わがままですね」


アイカ「さみ゛じい゛もん゛!」


「俺はあんまりお会いしたこと無いですけど、お祖父様とか…

サムとかいるじゃないですか」


アイカ「お゛父さんどかっ゛! 

お母さんとがじゃっ゛! ないもんっ゛!」


おいおい幼児返りのパターンは初めてだぞ…


「え〜 それじゃあもういい歳ですけど、ご実家にでも送るようにしましょうか?」


アイカ「いない゛も゛ん゛っ! 顔も゛し゛ら゛な゛い゛も゛ん゛!」


なんだ、重いぞ。

今日はやけに重いぞ。


「え〜 はい。 それじゃあまぁ、良いですよ帰らなくて。

しょうがないです」


対応が分からん以上、ほっぽり出すと後々クレイジーゴースト達に縊り殺されそうだ。


アイカ「あ゛り゛がとう゛!」


「でも、もう3時ですから。

お酒はもう止めて寝ましょうね。

俺眠いですよ。

ソファ使うんで、アイカさんはベッドで…」


アイカ「膝ま゛くら…」


「はい?」


アイカ「膝まくら゛しでっ゛! 歌うたっ゛でっ!」


「は?」


アイカ「ぅ゙う゛ううう゛!!!」


あ、これやらなきゃいけないパターンだわ。

最後まで付き合ってやんないと後々人間関係ヤバいパターンだわ。

そんな気がする。


「あ〜 しょうがない。

しょうがないですね。

え〜

ほら、それじゃあはい! 

ソファに座るんで…

どうぞ」


アイカ「う゛ん゛っ゛!」


「あ〜 あ〜っと、それじゃあ子守唄でも。

ね〜んね〜ん〜ころ〜り〜よ〜」


アイカ「肩ぽんぽんしながら゛やっ゛てっ!」


「あ〜 はい。

失礼しました。

ね〜んね〜ん〜ころ〜り〜よ〜おこ〜ろ〜り〜よ〜…」


寝付いたのは空が白んでからだった。

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