野生の書物(ある密猟者から譲り受けた書物によれば)

書物の濫獲が問題となっている。重厚な表紙をもつ種は、愛好家に高値で売れるし、マテリアルな面では弱いが、内容的に充実した種などはインテリ層には垂涎の餌となって価値を押し上げた。


書物の猟には現在、許可が必要となっており、国際条例によって、種別に捕獲数が制限されていたり、絶滅危惧種に対しては狩猟が禁じられている。


しかし、密猟者は現在に至っても根絶できていず、ついに絶滅の憂き目に遭った種も少なくはない。


法的な打開案が議論されるなか、書物の養殖の研究も進行しているが、生態的に解明されていない点が多く、成功例はまだない、という状況である。技術革新や重要な発見が飛躍的な前進を可能にするかもしれないが、これまでの研究をみてみるに、10年20年というスパンでは、まだまだ現実のものとはならないだろう。


というのも、生殖方法がいまだに不明なのだ。地域に分布する書物の物語の形式や文体の研究によって、系統は少しずつ解明されつつはあるが、そこから分かるのは掛け合わせの内容であって、その方法ではなく、よって生殖の解明には繋がらない。


ただ、書物は有性生殖的に繁殖する場合と、分裂増殖的に繁殖する場合があるらしいことは知られている。というのも、有性生殖的に繁殖する場合にはかならず装丁や内容が親とは違った表現になるが、分裂増殖的に装丁と内容が全く一致する個体というのも数多く存在するからだ。


現在の技術では自然交配による新刊を待つよりほかないが、交配の方法が解明され、人工交配が可能となれば、金魚や家畜のように、人為的な形態の操作も可能になるかもしれない。このことは書物を愛するすべての人が夢見てやまないことに違いない。

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