ホオズキのせい
~ 八月十四日(月) 国語 ~
ホオズキの花言葉 私を誘って下さい
好きなのか、はたまた嫌いなのか。
いつからだろう、俺は考えるのをやめた。
夏休み真っ只中。
真っ白なサマーワンピースに、高校生らしくちょっと大人びたサンダル姿。
軽い色に染めたゆるふわロング髪をつむじの辺りにまとめて、ウェービーで大きなお団子にしている可愛い夏のお嬢さんは、
そう、可愛い夏のお嬢さんなのだ。
ここだけ見れば。
……だが、髪のお団子に突き立つ立派な緑の苗がいやでも目に入ってしまう。
そこにプランプランと揺れるホオズキ。
約十ヶ。
俺には昔からこいつが、バカにしか見えない。
そして見た目だけではない。
こいつのトンデモ行動は、俺の心を真夏だというのに凍えさせてしまうのです。
「道久君、おはようなの! あたし、全然待ってないの! 今来たところなの!」
「そのセリフ、すべてがおかしいです。なぜなら本日、俺は君と何の約束もしていませんから」
待ち合わせっぽくしても、今日はかまってあげません。
既読スルーです。
なぜならこれから、読書感想文用の本を買いに行くからです。
今日感想文を書けば、宿題コンプリート。
清々しい気分で夏休み最後の二週間を過ごす予定なのです。
だからね? ついて来ないでくださいな。
「本屋じゃかまってあげないからな。俺は、面白そうな本をじっくり探したいんだ」
「それは困るの。あたし、今日読書感想文終わらせないと大変なの」
「すいません。仰っていることが微塵も分かりません」
小さい頃からいっつも一緒。
家族のように過ごしてきた穂咲のみょうちくりんな言動を、俺は誰より理解してあげることが出来る自負がある。
こいつの頭に家業の花屋の宣伝広告を活けてしまう母親ですら、俺に通訳を頼む時があるほどだ。
でも、その俺ですら意味分からん。
「だからね、道久君は宿題やるんでしょ? あたしもお誘いして欲しいの」
「読書感想文を一緒にやる意味ないじゃない。……まあ、読みやすい本を貸してあげることくらいはできるけど」
とたんに笑顔。
しまった。
また甘やかしてしまった。
こいつに俺が読むような本は理解できないだろうからな。
母ちゃんの本棚にあったドラマの原作小説とかならちょうどよかろう。
ああ、そう言えば今やってる兄妹の恋愛ドラマのハードカバーもこないだ買ってきてたな。
テレビのネタバレになっちゃうけど、まあいいか。
しょうがない。
家へUターンだ。
「じゃあ、先に貸してやるからちょっと待ってなさい。……それより穂咲。俺が本を買いに行くタイミング、よく分かったね」
「ううん? 宿題手伝って欲しいからお伺いしたの。早速助かったの」
「ほう。それで? あとどれくらい残ってるの? 得意の目玉焼きでお答えください」
「目玉焼き? えっと、それなら、洗い物始めたあたりなの」
「なんだ、お前も最後の一個か。それなら明日からたっぷり遊べるな」
「ううん? お料理前に洗ってるところ」
「ちゃんと料理が終わる毎に洗って! ……じゃなくて、これから始めるの!?」
「毎日一教科ずつ終わらせれば十日で終わるの。今日は国語」
そんな丼勘定聞いたことない。
一日一個って、なに?
……ああ、そうでした。
思えば毎年、こんな感じでしたよね。
俺は十日間のスケジュールをすべて食いつくされたことに頭を抱えながら、穂咲の手を引いて玄関をくぐるのであった。
「……あ、でも、絵日記なら毎日書いてるの」
「そんな宿題出てません」
がーーーーーん!
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