第345話 知られざる魔道具の世界?

「お、アキさん! 珍しいところで」

「ん? 木山さん?」


 夜の帳が降りて暗くなったイルビンの街を歩いていると、横から聞き慣れた声が届く。

 その声に振り返ってみれば、最近よく会っている大工の木山さんが、ニカッと笑った顔で手を挙げていた。

 ……服装的に、作業が終わった後って感じだろうか?


「えっと、作業の帰りですか?」

「そうでい! アキさん達からもらった要望に添って、作業してるんで期待しといてくれい!」

「あ、はい。ありがとうございます。楽しみにしてます」


 ドンと胸を張る木山さんに頭を下げて見せれば、彼は少し照れたように笑い、「そういえば、アキさんはこんなとこで何してるんで?」と、いつもより少しうわずった声で訊いてくる。

 あまりにも聞き慣れない声に、少し笑ってしまいそうになるのをグッと我慢して、「地下古水路に行ってたんですよ」と返した。

 たぶん照れ隠しで話題を変えたんだろうし、ノッてあげる方がお互い良いはず。


「古水路? あそこはそんなに旨みが無かったと思うが」

「そうなんです? 僕はフェンさんに教えてもらったので、気分転換にって感じでしたけど」

「気分転換なら良いと思うぜい! 面白いところだしな!」

「それは確かに。ただ、鉱石を掘り出すのに時間はかかりましたけど……」


 言いながらツルハシを持ってはみるものの、ズシッとくる重さに一瞬身体が持っていかれる。

 ……筋力が足りないんだろうか?


 思いつつ木山さんを見てみれば、がっしりとした身体と服を着てても分かる太い腕。

 ……やはり時代は筋肉?


「……ふむ」

『アキ様……』

「あ、アキさん? どうしたんでい」


 見比べてみても、僕の腕とはまるで違う。

 木山さんが丸太だとすれば、僕の腕なんて細枝どころか針金レベル。

 っく! リアルの方ならもう少し太いのに!


「木山さんって、鍛えてるんですか?」

「は? なんでい、いきなり」

「いやほら、ツルハシって重たいじゃないですか。なので、もっと筋肉があれば掘り出すのが早くなるかなって」

「ああ、そういうことか。そりゃ俺の仕事はアレだからな。普段から木材だなんだと持ってるぜい! ただ……腕の太さは、初期ログインの時のキャラクタークリエイトの結果だからよ……」

「……それも、そうですね」


 リアルとゲームの姿が違うということは分かっていたのに、なぜかそこだけが頭から抜けていた。

 そうだ、そうだよ。

 ゲーム内で鍛えたって、腕の太さは変わらないんだ。


「では、ツルハシの扱いが上手くなる方法ってご存じですか?」

「ツルハシか。普通なら<採掘>スキルをゲットして、採掘行動でレベルを上げるって感じなんだが……」


 木山さんはそこまでいって、僕の方にチラッと目線を向け……「アキさんはそうじゃないよなぁ」と呟いた。


「えっと?」

「ああ、いや。アキさんは<採掘>スキル持ちってわけじゃないから、<採取>に<採掘>ほどの補助効果は望めないと思うんでい」

「ふむ」

「前にも言ったと思うんだが、<採取>スキルってのは他の採取系スキルと比べると、広く浅くカバーするスキルなんでい。色んな採取行動に対して補助が出る代わりに、特化型スキルに比べて、補助が弱い。ただ、多種多様な素材の入手に向くスキルだけに、アキさんの様な<調薬>や<魔道具作成>系のスキルとは相性が良いぜ」


 ……ん?

 魔道具作成?


「あの、木山さん。魔道具作成って?」

「ご存じないですかい? 魔力を込めると作動する道具を作るスキルですぜ。例えば……アキさんも持ってると思いやすが、“携帯コンロ”なんかも魔道具の一種ですぜい」

「え!? あれって、魔道具だったんですか!?」


 便利だなー程度に使ってたのに!?

 あ、もしかしてあのランタンも!?


「携帯コンロ以外なら、冷蔵庫や扇風機なんかもウチに置いてますぜい!」

「なんだろ……すごいはずなんだけど、手放しに喜べない気持ちですね」

「まあ、ゲームの世界観には合わないからなぁ……」

「ですねぇ……」


 だって、剣と魔法のあるファンタジーな中世風世界に冷蔵庫だよ?

 ファンタジー感がすごい薄れるよね?


「な、なんにしても、<魔道具作成>ってのは、そういったモノを作るスキルってことですぜ。俺のギルドには、<調薬>と一緒に持ってるやつも多いんで、アキさんも興味があれば取ってみればいいと思うぜい!」

「ふむ……。面白そうですし、また時間があれば」

「おう! そんときゃ、ウチのギルドメンバーに教わりゃいいはずでい! いつでも言ってくれい!」

「分かりました。……で、それは置いといて、本題はツルハシの扱いに関してなんですが……」

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