第338話 会議は特に踊らない
――――紙を探して回った日から、数日が経過していた。
その間、僕は学校に行っては、帰ってログインしてを繰り返し……特にこれといって何かが進歩したこともなく、日々を過ごしていた。
が、しかし……木山さん達、建築系プレイヤーの皆はそんな僕らを尻目に、毎日コツコツと作業を続け、僕らのギルドホームをほぼ8割完成させていた。
あとはほとんど内装だけらしい。
「てなわけで、アキさん達には、このタイミングで内見をしてもらいてぇ!」
「内見? 早くない?」
「ん、未完成。早い」
「だねー! 大丈夫、完成するまで楽しみに待ってるよー!」
木山さんのギルドである“クリエイター総合ギルド”に併設されたカフェに呼ばれた僕らは、呼び出した本人である木山さんと一緒にお茶をしながら、話を聞いていた。
ちなみに今いるメンバーは、リュンさんを除くギルドメンバー全員+木山さん。
フェンさん曰く、リュンさんは『話し合いなんざ、儂がおらんでも問題なかろう』って言ってたらしい。
……まあ、確かにその方がスムーズに進む可能性はあるけど。
等々、そんなことを考えていた僕の前で、木山さんが「いやいやいやいや、そうじゃねえんでさぁ!」と手を振りながら、声を上げる。
「内装入れる前だからこそ、見てもらいてぇんですよ!」
「……?」
「一応こちとら依頼って形で作らさせてもらってるわけで、設備を置く位置だとか細かい調節がありゃ、現場で聞いときたいんでい!」
「……えっと、僕らは家のことに関しては素人なんですけど、それでも意見って必要なんですか?」
「そりゃ、構造だとか導線だとか、俺が見て気になるところがありゃ、ちょいちょい口出しはさせて貰うぜい? ただ、やっぱり使い方は人それぞれだからなぁ……その辺を考慮して作られた家の方が、使う当人からしても使いやすいってもんだろ?」
言われてみれば確かにそうだ。
今のところ作業中に困ったことはあまり無いけど、もし作ってくれた人の想定と、僕の作業順が違えば、導線が合わずに困ったことになるかもしれない。
コンロの高さや、水道の位置、換気のための窓とか、道具をしまう棚などなど……こだわってないつもりだったけど、それは今までが"それなりに使いやすい状態"だったからなんだろう。
「……そういえば、コンロの高さが合わなくて腰が痛くなるとかって話、リアルで時々聞きますね」
「ん。高さは大事。洗い場の広さとか深さも」
「そうねぇ……。メンバーの中だと、ミーだけ身長が頭一つ高いからぁ……」
「そういえばそうですね。僕らの中だと、一番低いのがリュンさんで、次がラミナさん?」
「違う、姉さん」
「えー、私の方が高いよー! だってお姉ちゃんだし!」
「関係ない」
ワーワーと言い合いながらも二人は自然と立ち上がり、僕らが見ている前で背中合わせに直立する。
そしてあろうことか、僕に対して「アキちゃん! どっちが高い!?」と判断を委ねてきた。
……いや、僕としてはどっちでもいいんだけど。
でも、ここで"二人ともほぼ変わらないから、気にしなくても大丈夫だよ"とか言おうとも、絶対聞く耳持ってくれないどころか、余計にヒートアップしそうだし。
ふむ、それなら……。
「僕としては、背が低い女の子も可愛いと思うし、好きだけどね」
「……ん。低くてもいい」
「えー!? なら私もー!」
「姉さんの方が高い。姉さんだから」
「いや、お姉ちゃんだけど、それは身長に関係ないじゃん!?」
いやいや、ハスタさんがそれ言ってたよね?
「ていうか、収拾付かないし、話を本題に戻そうよ。ね、ラミナさん、ハスタさん」
「ん、同意」
「むー、アキちゃんがそう言うなら。お姉ちゃんだし、寛大な心ってやつで!」
ふんっと胸を張ったハスタさんと対照的に、頷いただけでラミナさんは椅子へと座り直す。
そんな僕らを見て木山さんは「お、ようやく終わったか?」と、いつの間にか取り出していた家の図面をテーブルの上へと広げた。
家は地下1階+地上3階建て。
1階に玄関、リビングや台所、それに僕の作業室。
2階に僕の部屋とラミナさんの部屋、あとフェンさんの部屋があって、3階にハスタさんの部屋とリュンさんの部屋がある。
もちろんそれ以外にも、物置だったり、万が一人が増えた時用の空き部屋とか、僕の作業室が使えなくなった時のためのサブ作業室とか……なんだか色々あったりはするが。
あと、ハスタさんとリュンさんが希望していた訓練所兼、アスレチックエリアは、庭のほぼ八割を使って作ってくれるらしい。
いったいどんなモノが出来るのか……は完成までお楽しみに、と図面に書いてあった。
……いや、図面に書いてないっておかしいよね?
「とりあえず、今見てもらってる図面の通りに作ってはいるが、この後実際に部屋に入ってもらって、意見をもらいてぇ。もちろん実際の部屋って言っても、まだ未完成だが、なんとなくの雰囲気が分かる程度には作れてるはずだからよ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます