第317話 この展開はちょっと読めていなかった。

「おまたせ、待った?」

「大丈夫」


 僕は先ほど念話を飛ばした相手……つまり、ラミナさんと、イルビンの街の中心にある広場で待ち合わせをしていた。

 元々、今日ギルドの設立をする予定だったんだけど、ラミナさんが言うにはみんなが揃うのは夜になりそうらしい。

 なんでも、ハスタさんは買い物があって出かけているのと、リュンさんはまだ寝てるとか……。

 それで、今ログインしていたラミナさんと、土地の話を訊きにいくことにしたのだ。


「でも、土地の場所を決めるときは、みんながいてほしいんだけどね」

「大丈夫。どこになっても、きっと誰も気にしない」

「それもどうかと思うんだけど……」

「それに、ギルドハウスの間取りにさえ要望出せるなら、きっとみんな納得する、はず」


 そ、そこは言い切ってくれたら良かったんだけど……。

 でも、土地を決めないことにはギルドハウスの大きさも決めれないし、出来ればギルド設立の時には場所が決まってる方が、設定も1回で済むから楽でいいんだよね。

 まあなんにしても、一度土地について訊きにいってから、かな。


「それじゃひとまず、ガザさんの情報を貰いに、ジャッカルさんのところに行ってみようかな」

「分からないけど、ついてく」


 そう言葉を切って、彼女は頷き、歩き始めた僕の少し後ろをついてくる。

 分からないけどついてくるという彼女の行動に少し笑いつつも、僕は昨日訪ねたジャッカルさんの家に向かうのだった。


「ごめんください。ジャッカルさんはご在宅でしょうか?」


 家の前へとついた僕は、扉を軽くノックし、中へと呼び掛ける。

 そんな僕の声を覚えていたのか、ガタガタと大きな音を立てながら扉が開き、赤色のトサカをもった男性が姿を表した。

 そう、ジャッカルさんだ。


「おお、アンタか。土地は見つかったのか?」

「まだですけど、その件でジャッカルさんに教えてもらいたいことがありまして。この街の住人で、ガザさんという方をご存知ないでしょうか?」

「ガザ? あー、アイツかぁ……」


 僕の問いにオウム返ししたジャッカルさんは、すぐに人が分かったのか、そう呟いて頭を掻く。

 しかし、続けて出てきた言葉は、予想外の言葉だった。


「アイツ、街には住んでないんだよ」

「えっ!? 街にいないんですか?」

「街の中にはいないな。アイツの家は、東門の外にあるんだ。なんでかは知らないけどよ」

「門の、外?」


 よく分からず首を傾げた僕に、ジャッカルさんは「ああ」と頷いて、少し詳しく教えてくれる。

 どうやらそのガザさんとやらは、東門から街を出てすぐの街道沿いに建っているらしい。

 ……門の外に家があって、大丈夫なんだろうか?


「土地の件で、なんでアイツに用があるのかはわからねえけど、基本的に家にいるはずだ」

「わかりました。ありがとうございます!」

「おう。土地が決まったら、家の図面引くからよ! また顔出してくれや」


 元気のいい声で見送ってくれたジャッカルさんに手を振りつつ、僕はラミナさんを伴ってイルビンの東門へと向かう。

 途中、ギルドの看板を設置しているプレイヤーを見かけたり、ギルドメンバーを募集している人がいたりと、お休みの日だけあって街中賑わっていた。


「なんかすごいね。お祭りみたいだ」

「ん。次のイベント、ギルド単位だから」

「そういえばそうだっけ。どんなイベントなんだろ……」

「わからない。でも、少人数はたぶん不利」

「そうなの?」

「たぶん。イベントは全員、だから」


 短すぎて分かりにくいけど、たぶんラミナさんが言いたいのは“ギルド単位での初めてのイベントだから、全員で参加できるイベントになるはず”という、ことなんだろう。

 まぁたしかに、せっかくギルドに参加したのに、イベントに参加できないのは可愛そうだよね……。

 でも、そうなると本当に少人数は不利なんだろうなぁ。


「ま、いっか。楽しめれば」

「ん。そう」

「まあ、メンバーのうちの2人は不満言いそうだろうけどね」

「……ん」


 そんな風にラミナさんと話しながら歩いていれば、視界に東門が見えてきた。

 門の作り自体は、どうやら西門と同じみたいで、高いところから飛び移れば、門の上にいくことも可能っぽい。

 ……いや、行かないけどね?


「さて、それじゃ行ってみますか」

「ん」


 門のすぐ近くまでやってきた僕らは、なにかあっても対応できるように、一応武器や防具を身に付ける。

 ラミナさんが小盾と剣で、僕は木槌だ。

 なんだかんだで対応しやすいのは木槌なんだよねぇ……叩いたらいいし。

 お互いの装備を確認して、僕らは街の外へと足を踏み出した。


◇◇◇


「うーん……」

「アキ、どうかした?」

「いや、門の前であれだけ気合いを入れたのに、門のすぐ後ろに家があるとかさー……」

「手軽」

「いや、それはそうなんだけども」


 そう、僕らの目的地であるガザさんの家は……門のすぐ後ろに建っていた。

 街の中からだと微妙に見えない位置なだけに、出た瞬間「あった」と真横から声がしたときの僕の気持ちは“さっきの気合いを入れた時間を返せ”である。

 いや、別に返さなくてもいいけど、そんな気持ちというか……肩透かしがすごいというか。


「アキ」

「ああ、うん。あんまりのんびりしてるのもアレだし、行こうか」

「ん」


 展開の早さにぐぬぬってた僕を、ラミナさんの声が現実へと戻してくれる。

 僕は少しだけ息を吐いてからそう言って、ガザさんの家の扉をノックした。

 するとすぐさま扉が開き、中から毛皮のコートらしきモフモフの服を着た大きな男性が姿をあらわす。

 威圧感と体格だけ見れば、熊といい勝負なのかもしれない……すごい失礼な感想だけれども。


「んん? なんじゃ、お主は。儂の家になにか用か?」

「えーっと、いきなりですいません。僕はアキ、ガザさんという方がこちらに住まわれていると聞きまして……」

「ガザなら儂じゃが……」

「ああ、よかった! ジェルビンさんってご存じですか? 南の方の町の元町長の方なんですが」


 僕はそう言いながらインベントリを操作して、ジェルビンさんの手紙を取り出す。

 そしてガザさんが頷いたのを見てから、「ジェルビンさんからご紹介をいただきまして……これが、その手紙です」と、彼に手渡した。


 彼は玄関口で僕らと向かい合ったまま手紙を読み、「……ふむ」と頷くと、僕へと手紙を返してくる。

 それはつまり……僕にも読めってことなんだろう。


「えーっと……」


 手渡された手紙に目を落とし、その内容を読んでいくと……どうも途中から僕宛の内容になっていた。

 そこには、“ガザは信用できるが不器用な男じゃ”とか、“イルビンの中よりも外の方がアキちゃんには良いじゃろう”とか……そんなことが理由も付けていっぱい書いてあった。


「でも、街の外か。魔物とかは大丈夫なのかな」

「魔物のことは大丈夫じゃろう。儂の家でも使っておる、魔物が苦手な植物などを使えば、家の周りに魔物が寄ってくることはほぼ無いじゃろう」

「なるほど、そういったものがあるんですね」

「うむ。それにここいらの魔物はあまり強くないからのう。強者の匂いがあれば、不用意に近づきはせん」


 強者の匂い……それならなんとかなるかな。

 まぁ、うちのメンバーどころか、全プレイヤーの中でもトップクラスの戦闘能力だし。

 それに、元々あの2人用の訓練場所は外に作る気だったしね。

 一石二鳥って感じかな。


「アキ、場所は?」

「ああそうだった。それでガザさん、どこか安く譲っていただける土地とかってあったりしますか?」

「安いもなにも、儂が持ってるだけで誰も手入れしてない荒れ果てた土地なら、そのまんま譲ってやるわい。ただし、整地やらなにやらは、自分達で手配してやってもらうことになるがの」

「ああ、それならたぶん大丈夫だと思います。でも、良いんですか?」


 荒れ果てた土地といえど、土地は土地なわけで、タダで譲ってくれるっていうのは……良いんだろうか?

 そんな気持ちから確認をとった僕の前で、ガザさんは少し困ったような顔をしながら「手入れしてないところはな、色々と湧くんじゃよ……」と口にする。

 その意味がよく分からず首を傾げた僕の横で、ラミナさんは「ん、そう」と、なにか納得したような声で頷いた。


「ラミナさん、どういうこと?」

「行けばわかる」

「……危険だったりする?」

「わからない」


 そ、そっかー……。

 でも、ラミナさんが危険かわからないってことは、危険かもしれないってことだよね?

 んー、ならちょっと2人で行くのはやめといた方がいいかなぁ……。

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