第254話 方向性
「というわけで、オリオンさん。お力添えをお願いしたいのですが……」
話し合っている方向性がどんどん調薬から調理の方向へ進んでいたこともあり、ひとまずオリオンさんに協力をお願いすることになった。
むしろ、内容が内容なだけに調理系のプレイヤーがメインになりそうな気もするんだけど。
「ええ、大丈夫ですよ。ですがアキさん、ただの酔い覚ましで大丈夫なのでしょうか?」
「ん? どういうことですか?」
「精霊の方が酔っているのはお酒ではなく、マナ……いわゆる魔力で酔っているため、普通の酔い覚ましでは効果が薄いのではないでしょうか?」
「た、確かに……!」
そう言われると確かにそうかもしれない!
でも、そうなると考え方がまた全然変わってきちゃうぞ……?
「マナの多量摂取で酔っている状態でしたよね? でしたら、マナを除去したり、落ち着かせたりという方向性の方が良いのではないでしょうか? 酔っているという言い方ですと酔い覚ましとなりますが、患っていると言い換えてみれば……」
「……患っている、とすると、マナが病気の原因であって、それを薬でどうにかするってことですか?」
「そうですね。もちろんこちらでも酔い覚まし用の料理やドリンクを準備させていただきますが、アキさん達の方でも治療という方向から何か考えてみていただければ」
「わかりました」と僕が頷くと、彼は満足そうな顔を見せて僕に背を向ける。
この後は拠点内にある、お店の厨房で作るのだろう。
世界樹が動くとすれば、明日の夕方ぐらい――つまり、今は夜だとしても作業は進めないといけない。
明日は平日だしね……。
どれだけの人が最初から対応出来るかわからない。
「やれることだけは、やっておかないと」
そう気合いを入れ直して、僕は素材の山に手を付けた。
◇
「とは言ったものの、なにから手をつければいいのやら」
山と積まれた素材を手
魔力関係のお薬はまだ全く手をつけていなかったこともあり、そもそもの始め方がわからない。
でも動かないとダメだろうし、とりあえず近いけど違うものからスタートして頭を整理していくかな。
「となると、対応するものが違うけど、効果自体は似てるものから始めてみるか」
そう思い立って、すぐさまインベントリを開き、とある草を取り出す。
ずっとやろうと思っていた解毒剤――その材料になるカンネリだ。
たしか以前、現実世界で図書館に行ったとき読んだ本では、身体を活性化させて毒を追い出す、という治療法を見た覚えがある。
その時考えた作り方をとりあえず試してみよう……。
材料はカンネリの葉と[最下級ポーション(良)]の2つ。
いつもの最下級ポーションの作り方で、水の代わりに最下級ポーションを使うって感じだ。
まずは水の代わりにするポーションを鍋に入れ、火にかける。
その間にカンネリを切り分け、手のひらサイズの葉を4等分程度にザクザクと刻んでおいて……。
「結構ツンとする匂い……かも?」
強いて言えば
チューブから出したときとか、すりおろしているときの匂いとか。
鼻につくけど、そこまで不快な匂いじゃない。
……でも苦手な人は苦手な匂いだろうな。
そういえばと思い出して、切り分けたカンネリの残り――それをさらに茎と根に分け、鑑定を試してみる。
ジェルビンさんは葉が解毒剤になるとは言っていたけれど、他の2つも素材として使えると本には書いてあった。
もっとも何の素材になるのかは、書いてなかったんだけどね。
「えーっと、茎が……神経毒? 多分麻痺のことだと思うけど、それを持っていると」
物としてはおばちゃんに教えてもらった[ポルの微毒薬]が近いのかもしれない。
あれはポルマッシュというキノコを材料に使った毒薬で、服用することで短時間の意識低下なんかを引き起こす毒だ。
ただ、眠りに入らせることで痛みを感じにくくさせたりすることも出来る――いわば、麻酔のようなものらしい。
[ポルの微毒薬]が眠らせる全身麻酔だとすると、カンネリの茎で作る毒は局所麻酔のような部分的に麻痺させる薬になるのかもしれない。
……使う機会があるかどうかはわからないけれど、作れるようにはなっておいた方が良いだろうな。
そんな機会が来ないことを祈りたいけれど。
「さて、残りの根は……? え……?」
最後の根へと手を伸ばし、<鑑定>をした僕の目の前に、無機質なウィンドウと共に結果が表示された。
そこに書かれていたのは、猛毒。
つまりカンネリの根は――人を殺すことが出来る毒薬の素材だった。
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