第236話 島で採れる

 再度神殿の攻略を始めてから、1時間ほどが経過し……僕らの前に、巨大な扉が現れた。

 高さにして、5mはあるんじゃないだろうか?

 今の僕というより、本来の僕よりも背が高いはずのアルさんですら、扉の前では小人に見える。

 この扉のサイズってことは、ボスの部屋って……すごい大きいんじゃ……。


「ようやく、か」

「ああ……ようやくだ」


 アルさんとトーマ君が扉の前で座り込んで、放心するように口を開いた。

 でも、気持ちはよく分かるよ……。

 ここまでの道中、大変だったもんね……。


 いきなり道が動き出して、最初の部屋に戻されたり、矢が飛んできたり、槍が飛び出してきたり、落とし穴が開いたり……あ、あと大岩が転がってもきたね。

 途中からはみんなアトラクション前のテンションみたいになってたから、仕切ってた2人にしては纏めるのが大変だっただろうなぁ……。


 とりあえず、うん。

 お疲れ様。

 まだ、この後にボスが控えてるけど。


「アキさんもいかがですか?」


 アルさん達を見ながらそんなことを考えていた僕の視界に、突然陶器のカップか現れた。

 一緒にかけられた声から察するに、オリオンさんの差し入れってことかな?


「ありがとうございます。いただきます」


 両手で受け取って、立ち上る湯気に鼻を近づければ、ほんのりとした温かさと一緒に、少し甘い匂い。

 なんだろう……まだ僕が使ったことの無い食材かな?


「オリオンさん、これって?」

「ええ、この島で採れる素材を使っております。なんでも、あまり群生しない植物なのですが、トウモロコシに似た味と匂いでしたので……」

「あ、じゃあこれって、コーンポタージュ的な?」

「そうですね。料理名としてはそうなるかと」


 なるほどと頷いて、少しだけ口に入れてみる。

 匂いから感じるイメージと近い、ほんのりとした甘みが口の中に広がって……落ち着くなぁ……。

 これで周りがダンジョンじゃなかったらもっと良かったんだけど。


「アキさんは何か新しい素材などは見つけられましたか?」

「いえ、全然です……。先週はほとんど探索にも行けなかったので、今週は頑張らないと」

「ああ、なるほど。アキさん向けの素材ですと……風の神殿辺りがおすすめかもしれません。あの辺りは風通しも良く、木々よりも草花が多く自生してましたので」

「あ、そうなんですね。じゃあ今度はそっちに行ってみます! ありがとうございます」

「いえいえ。……そろそろのようですね」


 そう言いながら、僕から視線を外したオリオンさんの雰囲気がピリッと張り詰める。

 横からでもわかる……優しいだけじゃない、どこか怖くも感じるその雰囲気に、少しのまれそうだ。


「……よし」


 そっと息を吐いて、カップをオリオンさんへと差し出す。

 大丈夫、まだのまれていない。


「行きましょうか。オリオンさん」

「ええ、勿論です」


 驚きつつも笑いながらカップを受け取ってくれた彼の一歩前へ。

 大きくそこにある扉へと、僕は歩き出した。



「予想通り広いな」

「せやなぁ……。敵さんのサイズが予想つかんわ」

「よし! ボスの姿が見えるようになるまで、防御陣形を保ったまま進むぞ!」


 先頭を進むアルさんの号令に、それぞれの返事が返る。

 防御陣形というのは、それぞれのパーティーにいる盾役タンクを先頭に、パーティー毎で小規模に纏まる陣形だ。

 前をタンク、左右を前衛が見ることで、咄嗟の攻撃にも対処出来るようになっている……らしい。

 ちなみに僕らは、アルさんのパーティーの後ろに付く形になっていたりする。


 ――まぁ、タンクとかいないし。


「アル、前になんや山みたいなんが見えへんか?」

「それは奇遇だな。敵の気配も前からだ」

「つまり、や」

「そういうこと、だろうな。トーマ、頼む」

「あいよ。ちと行ってくる。そのままゆっくり前進しときや」


 アルさんの声に呼応して、すぐさまトーマ君が走っていく。

 山って言ってたけど、山に登るの?


「アキちゃん、山ってのは多分……ボスだぜ?」

「あ、そうなんですか?」


 「たぶんな」と笑ったジンさんが、アルさんに怒られて陣形に戻るのとほぼ同時に、トーマ君が帰ってきた。

 って、早すぎじゃない?

 まだ10秒くらいしか経ってないんだけど。


「どうだ?」

「ああ、間違いなくありゃボスやわ。他に敵影もなかったしな」

「そうか、それは朗報だな」

「ただまぁ……」

「ただ、なんだ?」

 

 微妙に笑ってるような困ってるような表情のまま言葉を切ったトーマ君へ、アルさんが続きを急かす。

 それに対して、トーマ君はさっきよりも笑みを強くして……


「敵さん、ヤドカリや」


 と、呟いた。

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