第222話 得意なこと

「複合スキル……」


 その言葉は、イベントの中で何度か聞いた。

 そして、実際に戦ったものでもある……。


 ――シンシさんの、針と糸だ。


「シンシの複合戦闘術だけじゃない。ヤカタや、フェン、もちろん俺だって会得している」

「フェンさん達も……」

「本来の武器戦闘術で戦えるやつには必要がなかったりするからな。まぁ、後々枝分かれして生まれる可能性はあるが」


 ウォンさんが言うには、複合スキルというのは、新しく生まれるスキルのことらしい。

 だから、今普通に戦えてる人達でも、後々他の技術と兼ね合わせて、新しいスキルを生み出す可能性があるってこと。


 だから、シンシさんのように本来戦闘では使えない技術を戦闘技術と兼ね合わせることで、僕にもそういった新しいスキルが生まれる可能性があるって言いたいみたい。


「なぁ、お前の得意なことってなんだ?」

「僕の得意なこと……?」

「ああ、そうだ。得意なことを武器にする。それが一番自分に合ってるもんだ。別に、好きなことでも良い」


 そう言ってウォンさんは棒を地面に立て、手を乗せ体重をかける。

 ……もう戦う気は無い、と言わんばかりの脱力感。

 まぁ実際、もう戦う必要がないんだろうなぁ。


「得意だったり好きだったり、ね。うーん……」

「参考までに教えてやるか。シンシの複合スキルの元は、<小剣術>と<裁縫>、<細工>が元になっている。小剣ってのはレイピアのことだ」

「つまり、針をレイピアに、敵や周りの物を布とか材料に見立てて、それらを糸で仕立てるってことなのかな?」

「そうだな。その考え方で合ってるだろうぜ。特殊なのは……お前、たしかあの忍者と知り合いだったか?」


 あの忍者って……あの忍者?

 忍者の知り合いは1人しかいないけど、そもそもこの世界にそんな沢山忍者がいるとは思わないし、多分あの忍者なんだろう。


「その顔を見るに心当たりがあるみたいだな」

「たぶんあの忍者さんだと思うけど」

「俺も知ってる忍者はまだ1人だけだからな。あの忍者だろうぜ?」

「うん、僕も1人しか知らないから」


 つまり、あの忍者とはあの忍者さんだということだろう。

 ……色んな人に忍者って言われるって、忍んでないのに忍者でいいんだろうか。


「まぁ、その忍者の使う忍法は、完全に複合スキルだ」

「え、あれってスキルなの? 完全に言ってるだけだと思ってた」

「いやいや。俺もそう思ってたんだが、どうやらスキルみたいだぜ? 俺が見たのは、風磨手裏剣に空蝉、土遁と疾駆だな」

「風磨手裏剣は知ってるけど、空蝉に土遁、疾駆?」

「空蝉は有名な身代わりの技だな。土遁は地面を爆発させる技、疾駆は空中だろうと自在に駆ける技だ」

「え、えーっと……?」


 正直理解が追い付かない。

 このゲームってリアリティを売りにしてたはずなんだけど、リアリティってどこにいったの?

 いや、シンシさんの戦いの時点でリアリティからは遠ざかってたとは思うけど……。


「今のところ、忍者が一番複合スキルを使いこなしている。まぁ、ネタに走りすぎていて強さはそこまでって感じではあるんだが」

「忍者さん……」

「そう哀しい顔をしてやるな。一応……<刀剣術>、<投擲>、<気配遮断>、<土属性魔法>、<火属性魔法>、<早駆け>、<立体機動>の辺りを組み合わせているらしい。ありゃ、趣味が高じてスキルに昇華したって感じだな」


 これに<PK>のスキルを合わせると、最低でも8つのスキルを持ってることになる。

 そういえば、複合スキルはどういう扱いになるんだろう?


「ねぇ、ウォンさん」

「ん? なんだ?」

「複合スキルって、どういった扱いになるの? 普通のスキルと同じ?」

「あー。同じだが少し違うな。基本的に使っていってもレベルが上がることはないが、レベルの概念はある」

「つまり?」

「元になっているスキルを鍛えれば、連動して計算されるって仕組みだ。だから、忍者みたいに大量のスキルを兼ね合わせてると、幅は広いが鍛えるのが難しくはなるな」


 逆に、兼ね合わせるスキルの数が少なければレベル上げなんかは楽だけど、やれることの幅は狭まるって感じかな。

 レベル上げっていっても、スキルはあくまで補助みたいなものだし、気にしないっていうのもひとつの手なんだけどね。


「で、どうだ? 得意なことや好きなことって思いついたのか?」

「んー、やっぱり採取か調薬かなぁ」


 というか、僕の持っているスキルってなると<採取><調薬><戦闘採取術><鑑定><予見><集中><喚起>なわけで、半数近くが僕の意思で使えるスキルじゃないんだよね……。

 かろうじて<集中>は意識すれば効果があるような気がするくらい?


 ここでおさらいしておくと、<採取>は採取素材が目に付きやすくなるのと、採取方法がおぼろげに分かるようになるスキル。

 <調薬>や<鑑定>はそのままの意味で、調薬が成功しやすくなるのと、アイテムの詳細がわかるようになる。

 <戦闘採取術>は、採取道具を使い、特定の倒し方をすればドロップが増えるってスキル。

 ただし、その方法とかは補助が無いから自分で調べたりしないといけないんだけど……。


 あと3つはちょっとわかりにくくて、<予見>は数秒先が見えるようになるかもしれない・・・・・・スキル。

 見えないときの方が多いし、見えるときも意思に関係なくだから……。

 <集中>は集中力が高まるスキル、かな?

 最後の<喚起>はまだよく分からない。


 ほんと、<喚起>だけはなんのスキルなのか……。


「ふむ、その2つと戦闘採取術を合わせて、何か出来そうなビジョンはあるか?」

「えー、えー……?」


 正直何も無い。

 そもそも<戦闘採取術>は<採取>を戦闘にも使えるようにしたスキルだから、これ自体がある意味複合スキルみたいなもの?

 それに<調薬>も、スキル自体は薬を作るスキルだから、戦闘に見立てるのも難しいよね……。




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名前:アキ

性別:女

称号:ユニーク<風の加護>


武器:草刈鎌

防具:ホワイトリボン

   <収穫の日ハーベスト>シリーズ・上

   <収穫の日ハーベスト>シリーズ・中

   <収穫の日ハーベスト>シリーズ・下

   <収穫の日ハーベスト>シリーズ・鞄

   トレッキングブーツ


スキル:<採取Lv.17><調薬Lv.20><戦闘採取術Lv.14><鑑定Lv.6><予見Lv.3><集中Lv.5><喚起Lv.3>


精霊:シルフ

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