第152話 使えない

 結果から言うと、斧は幹に深く切り込まれた。

 それはもう深く……斧の刃どころか、半ばほどまで。


「ぬけっ……ぬけな、い!」


 しかし、一発で奥まで入れてしまったからか、挟まってしまったみたいに、全く動かない。

 せめて少しだけでも、左右に揺らせれれば……!


「あ、そうだ!」


 試してみよう、と斧から手を離し、インベントリからノミと木槌を取り出す。

 そして、ノミを斧の刺さった位置から少し上に当てて……!


「ていっ!」


 カーンと気持ちいい音がして、打ち込まれたノミが木片を撒き散らした。

 木槌を持った腕の振り方や、腰の入れ方は斧で習ったことを応用すれば、いつもよりもいい具合にノミが入る。

 そのまま、少しずつ斧の上側を削っていけば、斧が取れるようになるはず。


「そろそろかなーっと」


 数回ほど削ってから、ノミと木槌をインベントリにしまい、斧の柄を両手で握る。

 一気に取ると危ないからね……ゆっくり、ゆっくり……。

 ぐりぐりと、揺らすように力を加えれば、斧が少しずつ抜けてきた。


「よっ……と」


 勢いで抜けてしまわないように、しっかりと握って樹から抜き取る。

 うん、刃先も痛んでなさそうだし、もう一回……今度は斜めから伐れば、この樹は倒せそうかな。


「でも、僕にもう少し力があれば……一発で伐れそうなんだけどなぁ……」


 例えば、シルフの補助とかあれば……。

 シルフ……寂しがってないかなぁ……。


「むぅ……」

「アキ?」


 樹を見たまま唸っていた僕の横から、声がかかる。

 その方向へ顔を向ければ、両手一杯に草を持った、ラミナさんがいた。

 ……もしかして、ずっと草を抜いてたんだろうか……。


「調子、悪い?」

「ん? いや、そんなことないよ。大丈夫」

「そう」

「ラミナさんは……その、何してるの?」

「……採取?」

「そ、そっか。いいのあった?」

「わからない。<鑑定>スキル、ない」


 あー……そっか。

 <採取>だけだと、素材なのはわかっても、名称も使用用途もわからないんだっけ……。

 たしかラミナさん、<採取>は持ってたはずだし、素材なことは間違いないと思うんだけど。


「見ようか?」

「あげる」

「え?」


 そのままラミナさんは、両手の草を僕に渡してくる。

 いやいや、さすがにタダで貰うのも……!


「ら、ラミナさん! 流石に貰うのは悪いよ?」

「ラミナ、使えない」

「えっと……そうだけど……」

「使ってほしい」


 つまり、ラミナさんは採取はしたけど自分じゃ使えないから、使える僕に使ってほしいってことか。

 でも、さすがにそのまま貰うのは……。


「じゃあ、その素材は僕が預かるよ。それで、その素材で出来たものをラミナさんにあげる。そうしたら、僕はスキルの経験値とレシピが手に入るし、ラミナさんはアイテムが手に入る。それでどう?」

「そう。それでいい」


 頷いたラミナさんから、素材を受け取って、インベントリに入れる。

 チラッと見ただけでも、手に入れたことのない素材があるみたいだった。


「アキ、元気出た?」

「ん? あー……そっか、心配かけちゃったね。ありがとう」

「元気ならいい」


 疲れたのか、彼女は無表情のまま、伐っていない方の樹の幹を背にして座る。

 僕はそれを見てから、もう一度斧をしっかりと握りしめ、樹へと叩きつけた。




「ひとまず、このくらいでいいかな」

「作るにはまだまだ足りないかと思いますが、倒しすぎても持ち運べないですからね」

「材木置き場とかあるのかな……。その辺調べてなかったですね」

「インベントリには入るみたいですが、樹のままだと制限がかかるのか3本までですね」

「でしたら、僕とオリオンさんで6本。残り2本は、もし良かったらラミナさん達が持ってきてくれると嬉しいかな……。もし無理だったらまた取りに来るよ」


 そう言いながら、倒した樹に触れてインベントリに収納していく。

 大きな樹が一瞬にして消えるのは、すごくゲームっぽい……!


「姉さん、ラミナが持つ」

「え、大丈夫だよー? 私も持てるよ?」

「大丈夫」


 どうやら、ラミナさんが持つらしい。

 まぁ、その方がいいかな……。

 取り出した時に、支えられる人がいないといけないかもだし。


「よっし、みんな大丈夫かな!」

「では、とりあえず拠点に戻ってから、資材置き場の場所を聞いてみましょう」


 各々で頷いて、拠点へと向かって歩いていく。

 資材置き場か……案外トーマ君あたりは、知ってる気がするんだけどね。

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