第145話 可憐なる華

「おや、アキさん、おかえりなさいませ。拠点の方はいかがでしたか?」


 ラミナさんと一緒に作業場に戻ると、すぐそばで話していたらしいオリオンさんが出迎えてくれた。

 チラッと彼の後ろを確認すれば、机なんかを使ってスペースが仕切られている……。

 どうやら、この後の会議用スペースを作ってくれてたみたいだ。


「ただいまです。んー……まだまだ全然って感じでしたね。ホント最低限って感じで」

「そうですね。何を作るかは、話し合うことになるかと思いますが……」

「上手いこと進むといいなぁ……」

「サポートはいたしますので。安心してください」


 そう言って、オリオンさんは優しく微笑む。

 まぁ、やるだけやるしかないよね……!


「それはそうと……アキさん、そちらの方は?」

「えーっと……」

「ラミナ」

「……友達のラミナさん。調査帰りだったみたいで、なぜかそのまま一緒に」


 作業場をもの珍しそうにみていたラミナさんが、名乗ると同時に僕の後ろに隠れた。

 いや、なんで隠れるかな……。

 オリオンさんは怖くないよー?


「そうでしたか。ラミナさん、はじめまして。私はオリオンと申します」

「……そう」

「アキさんのお友達ということでしたら、また会議の後にでも、お茶をサービスしましょう」


 なんだろ……オリオンさん、いつもの笑顔とは違う?

 営業スマイルっぽいような……。

 まぁ、初対面だし、仕方ないかな?


「えーっと……。オリオンさん、私はどこに行けばいい?」

「アキさんは一番奥の中央へ。アキさんの席の右手側に服飾系、左手側にその他系の予定です」


 待って……中央っておかしいでしょ!?

 いや、さんかくみたいな形で机のセッティングされてるし、わかるんだけど……!


「……アキ、頑張って」


 たぶん、僕とオリオンさんの会話でなんとなく察したんだろう……ラミナさんが無表情のまま、胸の前で両手をぐっと握りしめる。

 ……まぁ、しょうがない……がんばろ。


「それで、他の代表の人って……?」

「もうすぐ時間ですので、そろそろ来られるかと」

「……みたいだね」


 案内されるままに椅子に座ったところで、なんだか騒がしい音が響いてきた。

 パタパタとした子供の歩くような軽い音と……小気味良い木の音。

 この音って、似た音をどこかで……。


「……違う人」

「え?」

「靴音。下駄」


 あぁ、そうか。

 この木の音って、下駄の音だ。

 確か、リュンさんが下駄を履いてたから、それで聞き覚えがあったんだ。


 そんな下駄の音を、軽快に鳴らしながらやってきたのは、大柄な男性。

 作務衣さむえ、でよかったかな?

 その服を着て、頭に布ずきんの姿は、どうみても職人さん。

 すごい厳しそう……。


「やぁ、初めまして」

「ん?」


 聞こえた声に反応するように、男性が座った方とは反対側へと顔を向ける。

 そこに座っていたのは、長い髪をひとつ括りにし、前へと流している細身の……男性?

 でも、声は女性だったような……。


「僕はシンシ。針子と書いてシンシだ。よろしく、姫」

「あ、私はアキです……って、姫!?」

「ああ、そうとも。柔らかくも芯を感じられる薄紅の髪、手に取れば折れてしまいそうな細い手足、気高くも慈しみの感じられる瞳……可憐なる華……まさしく我が姫! 君もそう思うだろう? ヤカタ」


 僕の声に立ち上がり、まるで歌って踊るような手振りで、彼? ――シンシさんはそんなことを言い放つ。

 あと、ヤカタって言いながら男性の方を向いたってことは、あの作務衣の男性はヤカタさん……なのかな?


「ハリ、お前の趣味に俺を巻き込むな」

「おおっと、つれないね。あと、私の名はシンシ、だ」

「針子ならハリだろ。っと、お嬢。俺はヤカタ、子分どもからは親方って呼ばれてる。自由に呼んでくれ」


 短い黒髪の生えた頭を右手で掻きながら、ヤカタさんはシンシさんを軽くあしらう。

 というか、この人も僕のことをお嬢って……。

 後ろのオリオンさんもだけど……濃いメンバーばっかりだなぁ……。


「えっと……」

「皆様、お集まりいただきありがとうございます。今回の会議は急遽開く形となりましたので、僭越ながら私……オリオンが進行を務めさせていただきます」


 いざ……と思った矢先、オリオンさんの声が場に響く。

 突然の申し出だけど、正直……すごくありがたいです。

 だって、会議の内容すら、ちゃんと聞いてないわけだし……。


「「お嬢ひめ、こいつちらは?」」


 ハミングするように、左右両方から視線と声が僕に刺さる。

 2人、息ピッタリだなぁ……。


「こちらはオリオンさん。私のパーティーメンバーで、調理系の方ですよ。オリオンさん、よろしくお願いします」

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