第139話 ちょっと別行動

「昨日は迷惑をかけてしまい、本当にごめんなさい! あと、ありがとうございました!」


 僕はログインして早々に、みんなの前で頭を下げた。

 きっとアルさんもトーマ君もみんな……気にしなくて良い、みたいに言われるんだろうけど。


「いや、アキさん。あれはアキさんのせいじゃない。だからアキさんが謝る必要は……」

「せやでー? それに誰も迷惑とか思っとらん。せやろ?」

「当たり前でしょ? アキちゃんは大事なメンバーのひとりなんだから」

「アルさん、トーマ君に、リアさんも……。ありがとうございます」

「だから、気にしなくて良い。むしろあんなことがあって、来てくれただけでも十分だ」


 お礼を言いながら再度頭を下げた僕に、アルさんは少し困ったみたいに笑いながらフォローしてくれる。

 みんながそう言ってくれるだろうことは、なんとなく分かってはいた。

 けれど、僕の中のけじめだから……。

 僕が、僕を認められるよう、歩き出すための。


「ま、気にせんでええ。それよか今日の動き決めようや」

「そうだな。とりあえず、アキさんが落ちた後に残ったメンバーで拠点を回ってみたんだが……」


 そう言って、アルさんはインベントリからアイテムをひとつ取り出す。

 筒状に丸められたそれを近くにあった机の上に広げると、とある1点を指さした。

 あ……これ、地図……?

 でも、ほとんどが何も記入されてないんだけど……。


「この地図が今の島の形を表しているらしい。何も書いてないところは、まだ調査が出来てない場所のようだ」

「島の形なんかは、先遣隊の人らがある程度調べといてくれたらしいわ」

「先遣隊の方に指示されたのは、こちらの地図を埋めていくこと……でしたね」

「あぁ、オリオンさんの言う通りだ。だから、キャロラインさんとカナエさんを入れ替えた俺のパーティー5人で、まずは外を調べようと思う」


 なるほど……。

 まずは地形や魔物の生態地域を調べるんだ……。

 魔物にいきなり襲われても困るし、それに地形が分かれば、素材の場所なんかも特定しやすくなるだろうし……。


「それで、アルさん以外のメンバーはどうするんですか?」

「あぁ、そっちの生産主体のメンバーは、まずは拠点の生産エリアを拡張していく必要があるらしい」

「生産エリアの拡張……ですか?」

「見てまわったんやけど、どうもまだ設備が不十分みたいでな。まずは安定して生産が出来るように、設備やらなんやらを作る方向らしいわ」

「幸い、鍛冶の小型炉はあるみたいなんで、まずは他設備や施設を作るところかららしいっす」


 つまりこっちは、作業場を作るところからのスタートってことかぁ……。

 木工関係の人、全然知り合いにいないんだけど……。


「あれ? そう言えば、トーマ君は何するの?」


 アルさん達が外に出て、僕らが拠点を作っていくとして……。

 トーマ君は……?


「俺はちょっと別行動やな。基本は拠点付近におるが……」

「そうなの?」

「あぁ。トーマには情報収集を頼むことにしている。何分、知らない場所だからな……」


 アルさんの指示なら問題ないかな……。

 ただ、アルさんもトーマ君も別々なのが、ちょっと不安ではあるけど……。

 こんな風に新しいところに行くときは、基本的にどちらかが一緒にいてくれた事が多かったし……。


「ま、アキ。頼んだぜ?」

「……え?」

「生産メンバーのリーダーはアキさんだからな。頼りにしているぞ」

「え……。ええええぇぇぇぇええぇぇ!?」


 笑いながら僕の肩を叩くふたりの言葉に、一瞬頭がフリーズして……爆発してしまう。

 いや、たしかに僕がリーダーだったけど、ここでもとかそんな!?


「アキなら大丈夫やろ。いざとなりゃ俺を呼んだらええ」

「そうだな。俺はちょっと遠くにいるかもしれないが、トーマ……は少しアレだが、オリオンさんやスミスさん、キャロラインさんもいる。みんなを頼ればいい」

「おい、アル。俺はアレってなんや、アレって」

「それは言わなくてもわかるだろう?」


 アルさんの言葉に、トーマ君はジトっと彼を睨みつける。

 そんなトーマ君の視線を、不敵に笑うように返すアルさん……。

 なんだろ、初めてふたりが会った時とやってることは似てるのに、全然怖くない。

 むしろなんだか……ちょっと面白い。


「ふふ……」


 笑い声が聞こえないように手で口を覆ったけれど、少しだけ声が漏れてしまう。

 そんな僕の声に気付いたのか、ふたりも僕の方を見て、気を抜いたみたいに息を吐いた。

 やっとか、なんて声を聞きながら、僕は少しだけ目を拭った。

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