第128話 縁を切るとか
「そういえば、トーマ君。なにか用事があったんじゃないの?」
「そういやそうだったわ。薬作ってんのが何気に
粉末にした薬草を、小さい革袋にまとめて入れていく。
そんな僕の横で、トーマ君は何やら布でくるまれた、棒のような物を取り出した。
「これやこれ」
「なに、これ?」
「スミスに渡しといてくれって言われたんよ。あいつ今、イベント準備で来る客の対応に忙しいみたいでな」
「あー……。鍛冶士さん達はそうかもね……」
布にくるまれたままのそれをトーマ君から受け取り、ゆっくりと布を開いていく。
あー、もしかしてこれって……。
「ナイフ?」
「みたいやな。なんか聞いとるか?」
「……たぶん。僕の目の前で打ってたやつだと思う。スミスさんを同盟に入れる時に、アルさんが実力を確かめたいからって」
あの日、確か「アキさんにお渡しする予定」って言ってたような……。
柄が付いてなかったから、あの日は貰ってなかったけど、今はちゃんとした形になってる。
「あー……、アルならやりそうやなぁ……」
「あはは……」
アルさんは、結構固い面もあるからね……。
特に、仲間を守るとか、そういった面に関しては妥協しない感じがする。
「たしか、その時はコレを包丁って言ってたはず」
「あー、言われてみりゃ、武器としてのナイフよりは多少柄や刃渡りがでかいな」
「うん。……というか普通の包丁より少し大きい気がする」
武器に使う鉄と同じ材料だからか、持ってみると少し重い……。
鑑定してみたらわかるかな?
[牛刀:肉の塊を捌くためにプレイヤー スミス に作られた包丁。
プレイヤー アキ 専用]
「牛刀……」
「牛刀か。本来は肉捌き用やけど、確か万能包丁とも言われとるな」
「そうなの?」
「三徳包丁って知っとるか? アレも万能包丁なんやけど、アレの肉主体版って思っといたらええわ」
「そ、そうなんだ……?」
なんだか聞き覚えはあるんだけど……。
ログアウトしたら調べておこう、うん。
「なんや分かってなさそうやけど……まぁええわ。試しに使ってみたらどないや」
「それもそうだね!」
布を片付けて、包丁を少し濡らす。
それを綺麗な布で軽く拭いてから、まな板の上の薬草に落とせば……。
「わぉ……」
「ほー、なかなかええ切れ味やん」
サクッとも、ザクッとも違う……、スッと入る感じ……。
抵抗がないというか、なんだろう伝えにくいんだけどスッと入る感じ。
「トーマ君これすごいよ! スッと入る!」
「お、おぉ……
「でもこの、僕……じゃなくて、私専用って何か効果あるのかな?」
「あー。専用装備や専用道具ってのは、当人しか使えんのやなくて、当人以外やったら性能が著しく下がるってやつやな」
「んー? てことは、この包丁をトーマ君が使ったら、切れ味が落ちるってこと?」
「そういうことや」と、トーマ君は僕が机に置いた牛刀を持って、薬草へ落とす。
するとそこからは、さっきと違う、ザクッっと無理やり切ったような音が聞こえた。
なるほど、これが専用道具ってことなのか……。
「な?」
「みたいだね」
「ま、今んとこ専用道具なんかは、プレイヤーメイドか、ガラッドのおっさんくらいからしか見てへんけどな」
「そんなに浸透してるわけじゃないんだね……」
「俺みたいなやつは、逆に汎用性が利く方が値段も抑えれるしな。アルの大剣は一応専用武器やったで」
まぁ、アルさんの武器はガラッドさんに直接お願いして作って貰ってるオーダーメイドみたいだしね。
なんだったっけ……
そういえば、アルさんのは完成したのかな?
確か、僕の採取道具がアルさんの武器の余りから出来てるはずだし、多分出来てると思うんだけど。
そんなことを思いながら、僕は付属で付いてた革の包丁入れに牛刀をしまう。
「しっかし、包丁が贈り物……ねぇ……」
「ん? どうかした?」
「いや、包丁を贈るってのは色々と意味があってな。まぁ一般的には切るって事で、縁を切るとかな」
「え!? 僕、縁切られちゃうの!?」
まさかそんな意味で贈ってきたとは思いたくないんだけど……。
でも、スミスさん……いや、そんな……。
「まぁ、それもあるんやけど」
「そ、それ以外もあるよね? ね?」
「アキ、必死すぎや」
知らず知らず近づけてた頭を、笑いながら
「あたっ」とか言いながら後ろに下がるけど、軽くだから痛みは全然ない。
むしろ、ちょっと楽しい。
「まぁ、それで縁を切る以外の意味なんやけどな」
「うん」
「新しい未来を切り開くって意味もあるんやで。多分あいつのことやから、こっちやろな」
「新しい未来を切り開く……」
「その意味やったら、アキ……どないや?」
トーマ君の言葉に、手に持った牛刀へもう一度視線を落とす。
この包丁で、僕の新しい未来を……切り開けるんだろうか……。
相変わらずこういう時に限って、僕の<予見>は全く働いてくれない。
けど……。
「みんなと一緒なら、多分出来る気がするよ」なんて、トーマ君と一緒に笑い合った。
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