第126話 ちゃんとある

「えい」

「わひゃ!?」


 フェンさんの言葉に、釈然としない気持ちでいた僕の脇から手が生えた。

 そして、それに驚いた僕を置いて、あろうことか胸へと伸びて――


「ふむ」

「ふむ……じゃ、ない……っ!」

「アキ、大丈夫。ちゃんとある。……小さいけど」

「余計なお世話だよ!」


 僕だってそれなりに……って違う、なくてもいい、本来はないんだし……!

 その言葉に、わきわきと動いていたラミナさんの手は、胸から離れた。

 しかし、あろうことか……そのまま僕の背中にもたれかかってくる。

 腕を腰にまわして、まるで後ろから僕を抱きしめるように。


「ちょ、ちょっとラミナさん!?」

「少しだけ」

「え、えぇ……?」


 ラミナさんはそう言って、僕の頭に額を当てる。

 現実世界より低くなってしまってることもあって、僕とラミナさんは身長がほとんど変わらない。

 だからこそ、余計に全身が密着するというか……。

 その……どことは言わないけど、柔らかいというか……。


「ふふ。アキちゃん、しばらくそうしててあげてねぇ……。一番心配してたの、彼女だから」

「え? そうなんですか?」

「えぇ、そうよぉ。気絶したアキちゃんに率先して膝枕してあげたりねぇ……」

「……フェン、やめて」

「あらあら、ミーったら口が滑っちゃったわぁ」


 さすがに恥ずかしかったのか、ラミナさんは僕の頭から額を離してフェンさんに声をかける。

 しかし、相変わらず僕から離れてはくれないらしい。

 ……なんでこんなに懐かれてるんだろう……。


「たっだいまー! 熊と鹿と蛇やってきたよー! って、なにやってるの!?」

「あ、あはは……」

「……姉さん。おかえり」

「私も混ぜて混ぜて!」

「……だめ」

「えぇー!」


 戦闘から帰ってきたハスタさんが、僕らの周りをまわりながら、混ざろうと手を伸ばす。

 しかし、攻撃から身を守るように、腰にまわした手を使い、ラミナさんがことごとく跳ね返していった。

 ……なんだこれ。

 フェンさんもそれを見て笑ってるし、リュンさんに至っては、我関せずといった風に樹の幹に寄りかかってるし……。

 でも……。


「みんな、ありがとう。おかげで助かったよ」


 そんな自由で柔らかい雰囲気が、助かったこと……助けてくれたことを、より実感させてくれて……。


「ふん。ようやく礼を言いおったか」

「こーら、リュン。だめよぉ? そんなこといっちゃ」

「別に良かろう。遅いのは事実じゃ」

「もぅ……」


 返す言葉としてはあんまり良くないけど、リュンさんの声に険はない。

 フェンさんもそれが分かってるのか、一応といった感じに軽くいさめただけ。

 やっぱりこの2人は、友達同士だと思うんだけど……?


「まぁ、リュンさんの言う通り、お礼が遅くなったのは事実だし、ごめんね」

「……ふん」

「あと、ハスタさんたちもありがとう……。不甲斐ないところを見せちゃったね」

「気にしない気にしない! あのまま私たちだけ助かっても後味悪かったしねー!」

「そう言ってもらえると、ちょっとだけ気持ちが軽くなるよ……」


 そう言いながら、にこにこと楽しそうに笑うハスタさんに、僕も軽く笑い返す。


「……アキ」

「ん?」


 首だけで振り向こうとした僕から、ラミナさんはもぞもぞと離れていく。

 そして、みんなの視線を無視しつつ、ハスタさんの隣に座り直した。


「あの、ラミナさん?」

「無茶しないで」

「え?」

「アキ、無茶しないで」


 まっすぐ僕の方を見ながら、彼女は同じ言葉を口にする。

 2人には心配させちゃったけど……、でも本当にそれだけなんだろうか……?

 なんだか、ラミナさんの声には、それ以外の何かが……。


「ラミナ、大丈夫だって! ねね、大丈夫だよね、アキちゃん?」

「え? あ、うん。今回はホントにごめんね」


 ラミナさんのことを考えてた僕に、ハスタさんの妙に軽い声が届く。

 咄嗟に頷きつつ、謝ったけど……。

 なんだろ、2人……、何か隠してる……?


 不思議とそんな気がしたけれど、僕はその場でそれを追求することが出来なかった。

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