第70話 合流

「この度はお助けいただき、本当にありがとうございました」


 4人全員が合流した後、彼女は僕らを見まわし、深々と頭を下げた。

 その動きに合わせて、彼女の青くウェーブの掛かった長い髪が揺れ、彼女の顔に影を落とす。


「目の前で死なれたら、気分悪うなるからな。気にせんでええで」

「助けた本人がそう言ってるみたいですし、気にしないでください。例え俺が最初に見つけたとしても、同じ事をしていたでしょうから」

「うんうん。みんな無事だったんだし、それで良いよね」


 場を和ませるためか、軽い口調で言い放ったトーマ君に続いて、アルさんや僕も口を開いた。

 そんな僕らに安心したのか、彼女は下げていた顔を起こし、表情を和らげる。

 今、改めて彼女の顔を見て気付いたけど、瞳の色は髪の色に合わせているのか、海を思わせる青い色をしていた。

 その瞳も相まって、落ち着いていて優しげなお姉さんといった感じだ。

 見つめていた僕に気付いたのか、微笑んでくれたその表情も……すごく優しげで、なんだか安心感がある。

 ……こんなお姉さんいたら、姉離れできなくなりそうだ。


「もう身体は大丈夫ですか?」

「はい。おかげさまで」


 その言葉に淀みはなく、僕の問いかけに対して、はっきりと返してくる。

 ……うん、本当に大丈夫そうだ。


「さて、教えて欲しいことがあるんだが……先に雨を凌げる場所に行った方がいいな。トーマ、わかるか?」

「ああ? ちょい待ち」


 いきなり話を振られて驚きつつも、トーマ君は目を閉じて集中する。

 数秒程度で目を開き「あったわ」と、歩き出した。


「あの……?」

「えっと、分かりにくいと思いますけど……その、雨宿りができるところがみつかったみたいです。行きましょう」


 トーマ君、そしてアルさんと歩いて行くのを見送りつつ、彼女が首を傾げる。

 その姿に、やっぱりこのパーティーはおかしいってことを実感しつつ、僕は彼女の手を取った。


「ありがとうございます。えっと……」

「僕……じゃなくて、私はアキって言います。遅れずについてきてくださいね」


 何かにつけて困惑した顔を見せる彼女に苦笑しつつ、僕は手を引き歩いて行く。

 前方を見れば、トーマ君のスピードが速いのか、つられてアルさんも速くなっていて……かなりの距離が空いていた。

 雨は結構弱まってきたから、速度を出すのは問題ないんだけど……。

 視界の端で揺れる、柔らかそうな塊が気になって仕方ない。


「うぐ……っ」

「な、なにか……?」

「いえ、なんでもないです」


 彼女が歩く度に揺れる2つの塊。

 本来はゆったり目なローブなんだろうけど、雨に濡れているからか身体に張り付いて……その形を如実に現していた。

 一言で言えば……大きい。


(アキ様もそのうち成長しますから!)

「っ!?」

「ど、どうかしましたか?」

「あ、いえその……雨粒が変な所に当たりまして……」

「そう、ですか?」


 いきなりの爆弾発言に、見事に爆発してしまった。

 あのね、シルフさん……?


(分かってるよね? 僕、一応男だからね?)

(わ、分かってます! 大丈夫です!)

(だから胸とかいらないんです。いい? いらないんですよ?)

(は、はい!)


 シルフに念話できっちりと説明しておく。

 いいね、僕は男だからね!

 決してうらやましいとかそういった意味ではなく、男として気になっただけなんだからね!

 ……それはそれでどうかと思うけれど。


「アキ!」

「は、はい!?」


 1人でウンウン頷いていた僕の耳に、突然声が突き刺さる。

 変な声を出しつつ、慌てて顔をあげれば、トーマ君が大きい木の前で手招きをしていた。

 アルさんもすぐ近くにいるってことは、あの木が目的の場所かな?


「す、凄いですね……」

「一体どうやって探したんだか……」


 そんなことを呟きながら、名前も聞けていない彼女と共に苦笑しつつ、トーマ君達の元へと走る。

 トーマ君やアルさんみたいなことは出来ないけど……いつか僕だけの力を手に入れられるように頑張ろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る