第47話 やくそくの場所
アルさん達と
僕はトーマ君と一緒に、ジェルビンさんの家へと向かっていた。
「はー、なるほどなぁ」
「で、街に戻ってきてから――」
茶毛狼を倒した後、おばちゃんに作業場をお借りして、入手した素材なんかの確認を行った。
あいにく、毛や皮、爪といった素材ばかりで、お薬に使えそうな素材はなかったけれど、装備を作るときなんかに転用できるみたいだ。
だからコレはまた今度、リアさんと装備を見に行くときに聞いて見ようと思う。
もし使えたらお得だしね!
「あと、みんなであのお店に行ったよ。打ち上げみたいな感じで楽しかった!」
入手素材の確認が終わったあと、玉兎の肉を食べたがってたジンさんの要望で、食堂へと向かった。
以前、トーマ君と食べに行った場所だけど、やっぱり美味しくて……それに大人数で食べるのも久しぶりだったから、すごく楽しかったなぁ。
「お酒は飲まないってことで、ジンさんがちょっと残念そうだったけど」
「そかそか。楽しそうで良かったわ」
「うん!」
身振り手振りを交えながら話す僕に、トーマ君は笑顔で反応してくれる。
見たところ年齢は僕と同じか、少し上くらいなのに、話を引き出すのが上手くて、なかなか話が止まらない。
きっとこうやって色んな人から情報を集めてるんだろうなぁ……。
「んで、今向かってんのはドコや? この先は農耕区画やろ」
「そうだね。ジェルビンさんっていう……農家の方、でいいのかな?」
「や、俺は知らんで?」
「んー……。畑をやってるのは間違いないんだけどね」
前回伺った時も、畑作業をしてたし。
でも、農家の方って言っていいのかな……隠居してるだけかもしれないし。
それに屋根の上にクワを刺してる農家さんは見たことないしなぁ……なんで刺してるのかもわからないけど。
なんて、そんなことを考えつつも、僕はトーマ君を連れて街の東側――農耕区画へと足を進めた。
◇
「あそこだよ」
トーマ君と話しながら道を進むと、周りの景色から次第に建物が消え、閑散と広がった大地が多くなってくる。
そんな中、ひときわ目立つ緑色の屋根を指さしながら、僕は言った。
「お、着いたか。ってなんや……クワ?」
トーマ君の言うとおり、屋根の上には相変わらずの鍬。
「やっぱりそこに目がいくよね……」と、苦笑気味に顔を崩しながら、僕は彼の前を進んでいく。
「なぁ、アキ。アレ……」
「気になるだろうけど、気にしないで」
「お、おう」
秘密がある、みたいな言い方になったけれど、僕自身……屋根に鍬を刺してる理由は分からない。
でも、この場所を教えてくれた兵士のおじさんも特に気にしてなかったし、この世界では普通のことなのかもしれない。
……たぶん違うけど。
そんなことを考えながら家ではなく、周辺の畑を見まわす。
まだ日も高い時間だし、畑仕事をしてる気がしたのだ。
「いたいた。ジェルビンさーん!」
少し離れた場所で畑を耕していたジェルビンさんに、手を振りながら声を掛ける。
それで気付いたのか、彼は鍬を肩に振り返り、汗を拭うと、僕らの方へと歩いて来てくれた。
「アキちゃん。いらっしゃい」
「こんにちは、ジェルビンさん。作業中のところ、すみません」
「いやいや、気にせずともよい。何か用かの?」
「あ、はい。少し聞きたいことがあって」
「ふむ。なら儂の家で話そうかの。先に入っておいておくれ」
「わかりました。ありがとうございます」
どうやら、ジェルビンさんはもう少し作業をしておきたいらしい。
僕が話しかけたことで、途中止めになった部分をやりきってしまいたいんだろう。
そう思って、僕はトーマ君を連れて家に向かおうとした。
しかしトーマ君は、作業をするジェルビンさんの姿を見ながら、少し怖い顔を見せる。
「なあ、アキ」
「ん? なに?」
「あの爺さん、
「何者と言われても。ジェルビンさんっていうお爺さんで、昔はこの街のまとめ役をやってたみたい」
兵士のおじさん……たしか、グランさん? に教えてもらったのはそれだけのはず。
ただ、なぜかお薬や毒の材料なんかにも詳しかったりするんだけど。
「それだけか?」
「ん? うん」
「……あの爺さん。多分、この街で
「……え? そんな馬鹿な」
トーマ君の言葉に、僕もジェルビンさんの方へ目を向ける。
確かに背筋もまっすぐだし、鍬を振るう腕も力強くは見えるけど……全体的に見たらやっぱり70歳くらいのお爺ちゃんだ。
うん、やっぱりそんなことはないでしょ。
「ほら、そんなこと言ってないで行くよ!」
ジェルビンさんの方を見たまま、静止している彼の手を引いて、ジェルビンさんの家に向かう。
半ば無理矢理引っ張りながら、彼を家に入れて椅子に座らせたが――
「……トーマ君。そろそろ手を放してくれる?」
「あ? ああ、すまん!」
「そんなに驚かなくても……」
「や、その……」
彼は僕から顔を隠すように俯いて、机に肘を突く。
なんだかいつもより余裕がない気が……?
そんな妙な感覚を覚えつつも、僕が隣の椅子を引いて座ったタイミングで、ジェルビンさんが家に帰ってきた。
「ほっほ、待たせたかの?」
「いえいえ。ちょうど落ち着いたところです」
「ふむ。ところでアキちゃんや。そっちの子はボーイフレンドかの?」
「「えっ!?」」
ジェルビンさんの問いに、僕とトーマ君が同時に反応する。
そんな僕らを見て、ジェルビンさんは楽しそうに笑った。
「いや、その……」
「ほっほっほ、若いのぅ。名も知らぬ君よ、儂はジェルビン。見ての通り、隠居した爺じゃよ」
「あ、ああ。申し訳ございません。少し取り乱しました。俺はトーマ、こいつ……あーアキとはただの友達です」
いつもとは違う、少しかしこまった風の口調に、なんだか鳥肌が立ちそう……。
そんな思いを抱いた僕を見てか、ジェルビンさんは笑いながら「いつも通りでよい」と言った。
「んじゃ、お言葉に甘えて。アキからこいつについて詳しく知っとるんやないかってことでな」
「ふむ?」
言いながら取り出された瓶を受け取り、ジェルビンさんが小さく頷いた。
爆薬に属するアイテムであり、それをもし僕が作る事が出来れば……戦いに活かせるだろう。
茶毛狼の時みたいに何も出来ないのは、できれば避けたい。
あの日は、少し回復を手伝っただけで、戦闘はアルさん達、補助はシルフに任せっきりだったのだから。
「これがどんな薬か、ではなく……どうやって作るか、じゃな?」
「ああ」
「ふむ。確かに知っておる。じゃが、これは人をも傷つけれるものじゃ。魔物と戦うこととは違う……アキちゃんにその覚悟はあるのかの?」
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