第13話 薬と魔法と

「ひとまず粉末は置いておいて、最下級の作り方を見直そうかな!」


 材料はアルさんに貰った分があるし、色々検証しながらやってみればいいよね。


「まずは、」

「アキ様。その前にひとつだけよろしいですか?」

「ん?」

「先ほどの粉末ですが、先に水に溶かしてしまうのはどうでしょうか? 元々の回復量が上がっているのであれば、普通に薬草を煮るよりも良いものが出来たりしないでしょうか?」

「ふむふむ……」


 確かにその手もアリかもしれない。

 飲むときに水が必要なら、先に水に入れておいても問題はない……はず。


「うん。試してみようか!」

「はいっ!」


 とりあえずポーション瓶の半分ほどまで水を入れてから、粉末を入れてかき混ぜてみる。

 ゆっくりと混ぜること1分ほど。

 ある程度、水の色味が均等になったところで、僕はかき混ぜていた棒を抜いた。


[最下級ポーション(即効性):飲みきると瞬時にHPを20%回復

作成後1分でアイテム効果変化]


「うわ、これは……」


 今までのポーションは、時間をかけて回復って効果だったから、こんな風に即時回復ってなると非常に強力なんだけど……。

 作成後の制限時間が……。


「混ぜるのに1分。アイテム効果変化に1分かぁ……」

「使いどころが非常に難しいアイテムですね……。どんな変化をするのかによっても、扱いが変わりそうです」

「そうだね。もし完全にポーションとしての効果がなくなるなら……」

「その場合は、戦闘中に使うのは難しいでしょうね」


 仮にこれを使おうとすれば、複数人のパーティーで、1人は戦闘に参加しないって条件が付きそう。

 じゃないと混ぜる時間が取れないし。


「っと、そろそろ1分かな」


 確認しようと手に持って……僕はその異変に気付いた。


「くっさ……。え、ちょっとまって……なにこれ、臭い……」

「だ、大丈夫ですか……?」

「なんとか……」


 瓶を持たなかった方の手で鼻をつまみ、臭いに耐えながら先ほどの瓶の詳細を見る。


[最下級ポーション(即効性):飲みきると瞬時にHPを20%回復、同時に麻痺・毒・混乱の状態異常をランダムで付与

腐っており、非常に臭く苦い]


「これは……」

「罰ゲームにしか使えないかな……。しかもこれ、ランダムで付与ってことはもしかして運が悪ければ、全部付与されるんじゃないかな?」

「その可能性も……ありそうですね……」


 これはとんでもないものを生み出してしまった気がする。

 しかも、もう臭いが手を突き抜けて鼻に突き刺さってきてるから、どうしようもない。

 卵が、牛乳がとか、そんなレベルじゃなく臭い。

 もう臭い……とにかく臭いしか言葉が出てこない……。


「でも、これ……捨てたら怒られそうな気がする」

「そうですね……。とりあえずインベントリに入れておけば、臭いが消えたりしないでしょうか?」

「あー確かに。でもそれで、インベントリの中に臭いが蔓延したら……」

「それはない、とは言えないですね……」

「あのさ、えっと……シルフの力で、臭いを閉じ込めるとかって出来ないかな……」

「……出来るかもしれません。アキ様、瓶を机の上に」


 そう言って、シルフが置かれた瓶の方へと手をかざす。

 瓶を覆う緑色の風が見えた瞬間……瓶から漂ってきていた臭いが消えていった。


「おおー! すごい!」

「空気のボールで包んでみました」

「あ、音を消す時の応用?」

「そうですね」


 にこりと笑いながら頷いてくれるシルフに、そっと胸をなで下ろす。

 シルフがなんとかしてくれたおかげで、僕が全速力で街の外に捨てに行く必要もなくなったし。

 いや、どちらにしても後で捨てに行くけどね?


「あと、部屋の中の臭いもまとめて外に出しておきましたので」

「どうりで息を吸うのが楽になったわけだ……。ありがとう」


 ……誰も外にいなかったことを願っておこう。

 歩いてたらいきなり臭いの塊を受けたとか、悶絶なんかじゃ済まないだろうし……。


「さ、さて……気を取り直して、最下級に手をつけようかな!」


 とりあえず最初は、煮詰めてる時に出てくる灰汁を取っていこう。

 作業場兼台所だからお玉とかは置かれてると思うし……借りても、いいよね?


 そう思って、引き出しの中から木のお玉を取り出してみる。

 網みたいになってると非常に使いやすかったんだけど……さすがにそこまでは求めすぎかな。


「ひとまずはいつも通りに……」


 鍋に水を入れてから、火にかける。

 その間に、薬草を等間隔に切って……と。


 ちなみに、この世界にも一応コンロはある。

 ただ現実と違って、電気やガスで動いてるんじゃなくて、魔力を原動力に動いてるらしい。

 らしいっていうのは、僕はシルフに教えてもらっただけだからだ。


 どうも魔法を起こす回路が中に記述されているみたいで、決められた手順で起動することで、その人の精神力魔力を媒介に魔法が発動するって仕組みみたい。

 使用する魔力の量は、起こす魔法の大きさによって決まっているらしい。

 だから、攻撃魔法とかは多量の魔力を使うみたいで、普通は1発から多くても4発程度で、精神的な疲れがピークに達して倒れそうになってしまうらしい。

 もちろん何度も使って練習を重ねれば、より多くの回数や大きな魔法も使えるようになる。

 ……まぁ、その成長速度は人それぞれみたいなんだけど。


「強い魔法を使えるのも、ある意味才能ってことなのかな」

「スキルがあったとしても、武器の使い方や戦い方で強さが変わってしまいますから」

「その辺がリアリティってことなんだろうね」


 スキルやそのレベルだけじゃ強さははかれない。

 大事なのはその使い方……それを伸ばしていける才能……か。


「せめて僕に、調薬の才能がありますように。ってことだね」


 そう言って、シルフと一緒に笑い合った。

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