第13話 Shinyuu to Rettoukan

「楽しんでますか?」とライバルの中学生のような坊主がおれに言った。何が言いたいのか大体察しがついた、

「楽しんでるよ」

「昨日あの子に舐めてもらいました。あの黒い水着の」

「いいな巨乳じゃん。ハメなかったの?」

「ボスがハメてました」

「ひでえな」

「でも、きもちかったっすよ」

 黒いビキニの女がこちらの視線に気づいた。坊主は手を振った。

おれは勃起しそうになり、おばあちゃんのビキニ姿を想像した。こんなところで屈んだら笑いものにされる、

「ちょっと水飲んでくるわ」

 拠点に戻ると、近くで柄の悪い五人組が、サッカーを始めようとしていた。その中で偉そうにしている派手なサングラスをかけたやつに見覚えがあった。隼人じゃないか。

「久しぶり」相手の出方を伺うような情けない声になってしまった。

 青森出身の狐顔の隼人は大学を辞め、ホストになったという噂と共に消えた。おれたちはいつも昼休みキャッチボールをした仲だった。彼はおれにカーブを教えたが、おれはいつまで経っても投げられなかった。

「わぁ! 何やってんの?」と彼は言った。

 太いテンプル部にグッチのマーク、レンズは濃茶色で彼の目は見えない。不意に、彼は手をパーにしたまま、肘を鋭角に曲げ、その腕を後ろに振り上げた。動きを理解するのに時間がかかった。握手だ。

「ここで働いてるんだ。そうだ、パラソル借りない?」

「もうあっちで借りちゃった。こいつら俺の後輩」と彼は笑顔のまま早口で言った。

 噂が本当なら成功すると思っていた。学生時代の彼ほど人を楽しませられる人間は会ったことがなかった。ホストを三年続けて、後輩を連れて来るなんて、「さすが」としか言いようがない。しかし、その三文字がうまく出てこない、

「サッカー教えようか?」おれは彼の足下にあったボールを足で転がした。

「できたっけ?」彼の笑顔は鉄仮面ように硬く冷たかった。「もう行かなきゃ」彼は仲間を引き連れ、その場から離れていった。

 彼が最後までサングラスを取らなかったことにやるせなさを感じた。それが隼人との最後だった。

 ジャグを持ち上げ、口に直接麦茶を注いだ。遠くのさっきの黒いビキニの女を眺めると、坊主が女の背中にオイルを塗っていた。

 マホナが麦茶を飲みにやってきた。

「友達が来てたんだ」とおれはマホナに言った。

「うそ、ああいう女、いいわよね」

 マホナはおれの視線を追っていたのだ。

「おれは小さい胸が好きなんだ」

「わかっているわね、あんた」マホナは満足そうに笑った。

 溜まっていた劣等感が、汗と共に流れ落ちた。

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