第501話 ◆アリシアの大冒険(その12) 洞窟に棲むもの  

◆アリシアの大冒険(その12) 洞窟に棲むもの



あたしたちは、巨大魔獣の肋骨のトンネルをくぐり、小さな洞窟の入口に着いた。


もちろん洞窟の中は、真っ暗で何も見えない。



あたしは、洞窟には嫌な記憶しかないので、正直入りたくないのだけれど、ディアは何度も来ているのだろう、まるで見えているかのようにスタスタと入って行った。


さすがに真っ暗闇では、危なくて歩けない。 なのでセレネの真似をして指先にちょろ火を出しながら進む。


ディアはもうだいぶ先に行ってしまっている。  性格的に天然&マイペースなのだろう。



少し進むと至る所に鍾乳石があって、避けながら進まざるを得なくなる。


そして入口は狭かったのに中は結構広く、もう方向感覚がない。


この時点で、あたしは完全にディアを見失っていた。



これはまずいわね。  いったん入口まで戻ろうとして振り返るが、もう入口の明かりはどこにも見えない。


どうやら気が付かないうちに、道が登ったり下ったりでもしていたのだろう。


こうなったらもう先に進んでディアを見つけるしかない。



指先から出す炎を少し大きめにして、辺りを大き目に照らしながら歩く。


すると突然、洞窟の中にもかかわらず強い風が吹いて来た。


指先の炎が風に煽られ大きく揺れる。


ぐしゃぐしゃになった髪を手で直していると背後に人の気配を感じる。



ディア! なんであたしを置いて先にいっちゃう・・・


振り返ってディアに文句を言ってやろうと思たが、そこに立っていたのは男の子と白い服を着女の子だった。


少し驚いたけど、たぶんロキという男の子を見つけたという気持ちの方が大きかったので、恐怖感などはなかった。


女の子は、ロキくんのお友達だろうか。  でも行方不明になった女の子のことは聞いていない。



ねえ、あなたはロキ君でしょ?


あたしが声をかけるとその男の子は小さく頷いた。


ディアーナお姉さんとは会った?


そう聞くと今度は首を横に振る。


なんだ、あたしの方が先に見つけちゃったじゃない。  なんだかディアってセレネっぽいわね。



ロキ君、こっちの女の子はお友達なの?


そうだよ。 いつも魔法を教えてもらってるんだ。


あら、あなた魔法を使えるの?  お名前は?



その娘の名前はアレッタ<Aletta>、翼のあるって意味なんだよ。


暗がりから急にディアが現れて、女の子の名前を教えてくれる。


ちょっとディア!  あたしを置いていくなんて酷いじゃないの!


ごめん、ごめん。 ロキの姿が見えたもんで。


姿を見つけた割には、後から登場するってどういう事?


ハハハ それは、これを見つけたからさ。


そう言うディアの手には、黄色い小さな花がたくさん握られていた。


この花の根っこは、万病に効くんだよ。  花びらは染色に使えるしね。



ディアは花の説明をしながら、腰をかがめてロキの目線で優しくロキに訊ねる。


で、ロキはどうして、昨日家に帰らなかったんだい。  お父さんもお母さんも村の人たちもみんな心配してたよ。


そうよ、このお姉さんが誘拐したと疑われたんだからね。 あたしも腰をかがめてロキ君の目をじっと見る。


プイッ


あーー  目を逸らしたわね。  ちゃんとお姉さんの方を見なさいよ。




ロキは悪くない。 あたしが帰らないでって言ったの。


それまで一言も発しなかったアレッタが口を開いた。


ハァーー  なんて美しい声なのかしら。  あたしはアレッタの声を聞いて思わず溜息が出てしまう。



アレッタ、それはなぜ?  ディアがしゃがんだままアレッタの方に向きを変える。



もう直ぐヴイーヴルが復活する。  だから、あたしとロキでそれを阻止するため。


なんだって!  それは本当なのかい?   ディアの驚き方が半端ない。


ほんとう。 アレッタは俯いたまま返事をする。



ねえ、ヴイーヴルって何なの?


あたしは嫌な予感しかしないが、そうでない事を祈りながらディアに聞いた。 


さっき見たアレだよ、アリシア。  ヴイーヴルが復活なんてしたら、この島はお終いだ。



でも、さっきは、ここの番人とか言ってたじゃない。


それは、あの巨大な骨を見たら、ここの宝物を持ち出そうなんて思わなくなるからさ。


言い伝えでは、如何なる者もヴイーヴルを倒すことができなかったと言われているんだ。


そんな・・・


あたしは、ディアの話を聞いてただ愕然とその場に立ち尽くしていた。





***


ヴイーヴルはあたしが倒すわ!


いや、だから当面セレネさんの出番はありませんって!  何回言わせるんですか。


くっ  そこを何とかこじつけ・・


ダメです!


グハッ  そ、速攻!  どうしても?


どうしてもです。


なんでなのよーー。


だって、セレネさんばかり出てたら、マンネリ化するでしょ!


そんなぁ・・





※「マンネリ」は、マンネリズム(mannerism)の略で「新鮮味や独創性がないこと」です。

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