第487話 ◆絶対服従薬の材料

◆絶対服従薬の材料



商店街の外れにある蔦(つた)に覆われた怪しげなお店に、これまた飲ませれば絶対服従するという超怪しい薬を買いに来たアリシアであったが、店に入るなり急激な睡魔に襲われ、そのまま昏睡してしまった。



悪いね、お嬢ちゃん。 ちょっとだけおとなしくしててもらうよ。


店主らしき男はそう言いながら、手にカミソリを持ってアリシアに近づいて来た。



これこれっと。 こっちから探しに行かなくてもエルフの方からやって来るなんて、俺はなんてラッキーなんだ。




ふふっ  よく眠ってる。   男はアリシアの寝顔を見てニヤッと笑った。


これなら目が覚める前に、ちゃちゃっと済ませてしまえば気づかれないだろう。



男はアリシアの綺麗な髪を束ね持ち上げて、うなじをゆっくりと眺める。


よしよし。 ちょっとの間、動かないでいてくれよ。


そう言って、男はカミソリをアリシアのうなじにあてた。


男の手は、緊張のせいか微かに震えている。


男は一度深呼吸をしてから、ゆっくりとカミソリを引いた。




***


あれっ?  ここは・・・


どうやら自分はお店のソファーの上で目を覚ましたようだ。



あたし、もしかして寝ちゃってた?


お店の中を見回すが、誰もいない。


体にかけられていた毛布をたたみながら、自分がどうしてソファに寝ていたのか思い出そうとするが、まったく分からない。


おかしいなあ・・



そうだ!  お金は?   あたしは、このお店に薬を買いに来たことを思い出した。


手に持っていたお金が入った袋は、ソファの上には見当たらない。



あたしは慌てて辺りを探し始めたが、袋はすぐに見つかった。


袋はお店のカウンターの上に置かれていた。



すぐに中身を確認するが、中のお金は無くなってはいなかった。


そのことにホッとするが、いったいお店の人はどこに行ってしまったのだろう。


自分は確かに男の人の後について、お店に入ったはずなのだ。



もしかしたら男の人は、自分が寝てしまったので少しの間、席を外しているだけかもしれない。


そう思い、カウンターの椅子に腰かけて待ってみることにした。



カウンターの奥にはお酒のビンがたくさん並んでいる。


もしかしたらココは、ヴォルルさんから聞いたことがある、お酒を飲むバーというお店かも知れない。



どうでもいいけど、椅子の座面が高すぎて足が床に届かない。


落ち着かないこともあって、足をブラブラさせているとお店の奥から男の人が出てきた。



やあ、やっと目が覚めたのかい。


ごめんなさい。 なんだかすごく眠くなったことは覚えているのだけれど・・・



ハハハ  別に構わないさ。 ほら、これがお嬢ちゃんが言ってた絶対服従の薬だよ。


そういって男の人は、手に持ったビンをあたしに見せた。


ビンの中には、赤い透明な飴玉みたいな丸い薬が3つ入っている。



そのビンひとつで3万ミリカなの?


いやいや、一個で3万ミリカだ。  でも、この薬を作るために必要な材料が偶然手に入ったから、2個で3万ミリカでいいよ。


ほんとうに?


ああ  ほんとうだ。



やった!  あっ、ちょっと待ってて。  いま、お金が全部でいくらあるか数えるわね。


あたしは、カウンターの上にお金を並べて行くが、少し足らなかった。


ごめんなさい。 全部で2万9千5百ミリカしかなかったわ。  明日また来るから、その薬は他の人には売らないでね。



そうか。 それなら、5百ミリカはオマケしておくよ。


ほんとうに?



だけど、代わりにひとつお願いがあるんだ。


何かしら?  あたしにできること?


ああ。 半年に一度でいいから、このお店に来てくれるのがオマケの条件ってことでいいかい。


そんなに簡単なことでいいの?


ああ。


わかったわ。 OKよ♪



それじゃ、これを。


男の人はそう言ってビンから薬を1個取り、そのままビンをあたしに渡してくれた。



あたしは、お礼を言ってお店を後にした。


外に出ると、なんだか襟足がスースーする。  きっと秋が近いからなのだろう。



でも、そんなことよりあたしは、もう薬をどう使うかについて考え始めていて、ひとりニヤニヤしながらお城への帰路についたのだった。




***


エルフの女の子が帰ってから、男はすぐに薬を作り始めた。


真っ赤な木の実とエルフの襟元の産毛、そしてキラービーの巣から取った蜜。  禁断の島に100年に一度咲く花の実。


人魚の鱗、ドラゴンの角の粉末・・  これらを鍋に入れて煮詰めていく。



これまでに薬を欲しがる者は大勢いたが、エルフの産毛が手に入らなかったため、この薬が作れなかったのだ。


だがこれからは、一番入手するのが難しいエルフの金色の産毛が定期的に手に入る。


男は鍋の中で赤く煮詰まっていく液体を見つめ、ほくそ笑んだ。




***


や、やっぱり、犯罪よ!


えーー なんでですか?


それって拉致監禁と性的暴行よ!


わかりました。 自首してきます。 あーあ これで最終回か~。


えっ?  ちょっと待って。


いや、逮捕されたら続きは書けませんもの。


今回は、被害者がアリシアだから特別に許してあげるわ!


ほんとうですか?


ええ。



へっ ちょろいやつ。


なんか言った?


いえ、何も。

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